title_mail.jpg 市橋翔哉選手インタビュー
Pigeon Post interviewed Shoya ICHIHASHI @ Kansai University Ice Arena 関西大学アイスアリーナ. ((saved from J SPORTS site 掲載媒体ページ消去につき転載致します))
Pigeon Post - Pigeon Post 記者チーム: projection, interview, text, photos|OKKO THE PIGEON GUILLEMOT 海鳩オッコ: projection, edit|AIKO SHIMAZU 島津愛子: projection, interview&text(w/Aki SAWADA 澤田亜紀コーチ, ペアの見どころ), edit, design
thanks to: Aki SAWADA 澤田亜紀コーチ, Utako NAGAMITSU 長光歌子コーチ, NORAYA ノラヤ (NAHO YAMAMOTO) for our "beloved" green pigeon
September 3, 2015 in Osaka

Shoya ICHIHASHI 市橋翔哉 © Pigeon Post
Shoya ICHIHASHI @ Kansai University Ice Arena




市橋翔哉選手は、今シーズンからシングルと並行しペアへの挑戦を始めます。日本の男子選手がペアの道へ進むことは多くない。そんな中で市橋選手の挑戦に、スケートファンは胸を高鳴らせました。インタビューでは「フィギュアスケートが好きだ」という気持ちを語ってくださった市橋選手。観戦だけでは分からないペアエレメンツの素朴な疑問にも、丁寧に答えてくださいました。
澤田亜紀コーチと長光歌子コーチからの温かいメッセージも頂いています。


SI: 市橋翔哉選手

PP: Pigeon Post ピジョンポスト


PP: 市橋選手がフィギュアスケートを始めたきっかけを教えてください。

SI: 小学2年生の頃、臨海スポーツセンターのリンクに体験入学をして滑ることがあったんです。それがおもしろくてはまってしまって、スケートを始めることになりました。

PP: そこからはずっと大阪でスケートをされているんですね。ご出身は広島ですよね?

SI: はい。広島から引っ越してきてからはずっと大阪でスケートをしています。

PP: 現在は高校3年生となり10年間フィギュアスケートをされていることになりますね。その10年間の中であった楽しかったこと、辛かったことをそれぞれ教えてください。

SI: スケートは怪我が多いスポーツなんです。実際僕も足を怪我したことがあって、その度に滑れない時期がありました。その苦しい時期を乗り越えてもう一度滑れたときには楽しさが倍増して、自分は『スケートが好きなんだ』ということを再認識しました。

PP: 足のどこを怪我し、どのぐらいの期間滑ることができなかったんですか?

SI: 右足首を骨折してしまって手術をすることになりました。2~3ヶ月はずっとリハビリだけでした。中2の夏に初めて折れて、そこから3回連続で折れちゃいました。治ってやっと練習ができるようになり3回転のジャンプを開始したら、着氷で同じ箇所を痛めてしまいました。

PP: 何度骨折を繰り返してもフィギュアスケートを続けてきたのは『スケートが好きだ』という気持ちからですか?

SI: 辞めるということはできなかったです。すぐに怪我を治したいという気持ちでした。

PP: ペア挑戦の経緯を教えてください。

SI: 高校1年生の春休みに中京でペアのトライアウトがあるというのを耳にしたんです。シングルをやっているときから試合のテレビ放送を観たり、ペアに興味があったので行ってみたら、それがすごくおもしろくて。そこからはどんどんペアの競技に魅了されていきました。

PP: その最初のトライアウトのときにペアを組むことになったんですか?

SI: そのときは、ただただやってみるだけという形でした。

PP: 三浦璃来選手(中学2年生)と組むことになったのは?

SI: 一番大きな理由は、同じリンクで練習しているからです。いつでも練習しようと思えばできますから。

PP: 最初に三浦選手と一緒に滑ってみて、どう思われましたか?

SI: 初めてやったときからタイミングなども合っていたので、やりやすかったです。

PP: 実際にペアをやった上で、やる前の想像とのギャップはありましたか?

SI: 難しい競技だというのはテレビで観て分かっていたんですけど、いざ自分でやってみたらどうしたらいいのか全く分からなくて、想像以上に難しかったです。

PP: どんなところが特に難しかったですか?

SI: 全部ですね。スケーティングもシングルはいつも1人でやっているけど2人でやらなければならないし、リフトは上げ方が最初は分からなかったので苦労しました。

PP: 現在のペアの練習環境について教えてください。まず、日本ではどうですか?

SI: 日本ではシングルメインのリンクばかりなので、金曜日から日曜日の週3回しか練習できません。ここ(関西大学アイスアリーナ)では滑れないので中京(中京大学アイスアリーナ)に毎週通っています。

PP: カナダではいかがですか?

SI: 向こうはペアの選手だけの貸切がちゃんとあります。練習内容が濃かったので1日1日がすごく充実していて楽しかったです。

PP: モントリオールのリンクは今ペアがたくさんいるじゃないですか。日本、イタリア、もちろんカナダの選手もいます。たくさんペアがいても練習時間は取れるものですか?

SI: 滑っているカップルがあまりにも多すぎたら、別の時間に振り分けられるカップルがいるんですけど、基本的には大丈夫です。

PP: 日本ではシングル・ペアそれぞれどなたに教わっていますか?

SI: シングルは関大で長光歌子先生や本田武史先生、アシスタントコーチの澤田亜紀先生にも教えてもらっていて、ペアは東京の大石行康先生(女子シングル・渡辺倫果選手のコーチ)と若松詩子先生に教わっています。

PP: ペアを金土日にされていて、それ以外がシングルですか?月曜日から日曜日まで休みがないということですか?

SI: ということになりますね。

PP: えー!スケーターの方は、日曜日はオフですよね。

SI: シングルだけのときは日曜日がオフだったんですけどね。

PP: 1週間のスケジュールについてお聞きしましたが、1日の練習は?

SI: 平日のシングルの練習は、学校があるので早くても(午後)5時から遅くても9時過ぎまでです。ペアは1日3~4時間ぐらいです。

PP: 金曜日にもペアの練習をなさっていますが、それは学校が終わってから中京(名古屋)に行かれるのですか?

SI: 金曜日はあまり行けないことも多くて、基本は土日が多いです。

PP: そして、日曜日の練習が終わってからまた名古屋から大阪に戻ってくるんですね。タフですね!

PP: モントリオールの同僚スケーターから受ける刺激はありますか?

SI: 僕は組んで時間が経っていないので、モントリオールの選手たちとはまだレベルが違うんですけど、その分見て勉強できることがたくさんあります。マーヴィン・トラン選手と一緒に練習していて、彼のリフトはすごく上手いんです。タイミングもそうだしスピードもすごくあります。今はそれを見てどのようにしたらいいか勉強中です。他にも、ドリュー・ウォルフ選手はまだペアを初めてそこまで時間が経っていないんですけど、スロールッツを3回転でやっていて、上達が早いんだなって思います。

PP: 昨シーズン組み立てなのにペアらしさがありましたもんね!アイスダンスをされていたと聞きますし。ご自分もそういう風になりたいなと思いますか?

SI: そうですね、誰かに憧れられるような選手になりたいと思います。

PP: シングルで好きな選手・好きな演技について教えてください。

SI: 同じ(長光歌子コーチの)チームで練習していた高橋大輔選手で、演技は北海道の全日本(2012年札幌市で開催)で踊っていたFS"道化師"です。始まった瞬間、鳥肌が止まらなくてすごく印象に残っています。

PP: ペアで好きな選手・好きな演技は?

SI: メーガン(メーガン・デュハメル選手)とエリック(エリック・ラドフォード選手)のスローの4回転を間近で見たことあるんですけど、レベルが違いすぎました(笑) サイドバイサイドジャンプも3ルッツを入れていて、シングルでも2人ともいけるレベルなので、一番目標にしている選手です。印象に残っている演技は、去年のグランプリファイナルのフリーです。何をしているのかが正直全く分からなくて。終わった後もボーっとしちゃって「何をしていたんだろう?」みたいな(笑)

PP: 怒涛のエレメンツ構成でしたよね。それを今シーズンはさらに上げようとしていて⋯すごいですよね。

SI: びっくりしますよね。尊敬しています。

PP: 自分自身を客観的に見てどういうスケーターであると思いますか?

SI: 怪我をしたけどここまで続けてこられたのは、やはり『心からスケートが好き』だなというのが一番あります。自分は楽しみながら練習できているんじゃないかと思います。

PP: 辛い練習の中でも何かしらの楽しみを見出していますか?

SI: 調子がすごく悪いときでも調子が悪いなりにできることは他にたくさんあるので、そのときにできることをやろうと心がけています。

PP: スケーターとして目指すものは何ですか?

SI: もっともっと表現力を磨いていきたいです。手の先まできれいに見えるようにしていきたいと思っています。

PP: 表現力を磨くために、何かレッスンを受けていますか?

SI: ここで週に2回バレエのレッスンを受けています。

PP: バレエは氷上で行う動きと違いますか?

SI: 全然動かし方も違うんですけど、フィギュアよりもバレエの方が細かいので(フィギュアスケートをやる上で)助かってますね。

PP: フィギュアスケートという競技の魅力は何ですか?

SI: 試合本番はリンクに1人になるじゃないですか。それでたくさんのお客さんが選手1人だけを見ている、見てもらっているというのが楽しいです。

PP: 緊張よりも楽しい気持ちが勝りますか?

SI: そうですね。曲が始まる前までは緊張しているんですけど、始まったら「お客さんを楽しませたい」という気持ちになります。

PP: ということは大会が好きなんですね?

SI: 緊張するけど好きですね。

PP: 今シーズンのプログラム、SP"オペラ「ミス・サイゴン」より"とFS"チャップリン"について教えてください。

SI: ショートはジュリー・マルコットさんの振付です。ピアノ曲で大人っぽい雰囲気に仕上がりました。フリーはメドレーで、ヴァレリー・サウレーさんの振付です。静かに始まって、お馴染みの明るい曲調になります。シングルではコメディー系の曲を使ったことがなかったので最初は抵抗があったんですけど、シングルと違って2人で合わせて踊っていくので楽しいです。難しいけどやりがいがあります。

PP: 市橋選手がチャップリンを演じられるんですか?

SI: 2人ともチャップリンという感じなんです!

PP: おもしろそうですね!

PP: 今シーズンの目標を教えてください。

SI: まだペアでは試合に出たことがなくて今シーズンが初戦になるので、一番は「楽しめること」が大事ですけど、試合なので順位にもこだわりたいです。ツイストとかリフトとか全部の技を失敗なく終われたらいいなと思います。

PP: 今シーズンの初戦はいつでしょうか。

SI: 10月の西日本選手権です。

PP: 日本のペア界に対する思いや考えを教えてください。

SI: 日本はまだシングル選手が多いです。「カップル競技は、ジャンプができなかったりシングルであまり成績が残せなかったりしたら行く競技じゃないかな」と考える人が多いと思うんです。でも世界的には全然そんなことはなくて、個人でも世界レベルの人がペアでやっているので、もっともっと日本でもペアをする選手が増えたらいいなと思います。

PP: 中京のペアの練習に新しく来るスケーターもいるとお聞きしましたが、日本でも徐々にペアに興味を持つ選手が増えていると実感されますか?

SI: そう感じますね。ただ、女子は毎年増えてきているんですけど男子は全然来ないので、結局は組むことができなくて終わってしまうのかなという感じです。

PP: ペアスケーターとしての将来の夢は?

SI: 競技をやる以上、1番上まで行きたい、オリンピックは絶対に出たいと思っているし、出るだけではなくメダルを取って日本に貢献できたらと思っています。

PP: ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

☞ Shoya ICHIHASHI 市橋翔哉選手 @ Kansai University Ice Arena 関西大学アイスアリーナ on September 3, 2015




► 澤田亜紀コーチのお話


翔哉君がトライアウトを受けることになったのは、本田武史先生の勧めもありました。「ぺアに向いてるんじゃないか」と。武史先生は現役の頃カナダで練習されていたので、間近でペアのスケーターをご覧になる機会もあって、背も高いし「やれる」とイメージされたのではないでしょうか。トライアウトの話が出たときは本人も迷っていたと思います。シングルで強化選手になったシーズンに怪我をしたり、怪我に阻まれてきたので、「ペアで新しい道が拓けたら」という想いももしかしたらあったのかもしれません。

ペアの練習を始める1年ぐらい前から、ひとりで本当にコツコツと、シングルの練習の後にペアのための体作りをしていました。まずは筋トレから取り組んでいましたね。女の子を持ち上げないといけないので、そのために「筋肉つけます!」と。ペアをやるからには「自分が怪我をしてはいけない」という責任感もあると思います。

ペアに専念する意向もありましたが、ペアのサイドバイサイド(別々に同じ技をする)のエレメンツではシングルの練習が活きるので、シングルもできる範囲で続けていくことになりました。ペアとシングルの両立は大変だと思いますが、まずは西日本で頑張ってもらいたいです。アイスダンスの平井絵己選手も、過去に西日本でシングルとアイスダンスの両方に出場していたことがあります。同じ「長光チーム(長光歌子コーチのチーム)」の先輩に続いて欲しいです!筋肉がついてきてジャンプも良くなったと思います。

ペアスケーターとしては、他の日本の選手達と切磋琢磨して、日本のペアを皆で盛り上げていって欲しいと願っています。




► 長光歌子コーチよりメッセージ


翔哉君とは彼が小学3年生の時に出会いました。

以来今日まで、コーチとして指導しています。

小さい頃は、活発でやんちゃなイメージが強かったのですが、いつの頃からか寡黙で思い遣りのある少年に成長してくれました。

4年前のシーズン、ユース五輪の候補選手として、チームメイトの中村優選手と毎日練習に切磋琢磨していたばかりでなく、忙しいご両親に代わり弟妹の面倒もしっかりみていました。

我々コーチ一同、彼の明るい将来を疑いませんでした。

しかし、その後の彼を襲った試練は表しがたいほど苛酷なもので、よくぞ諦めず今日まで練習を続けてくれたと感服しています。

昨シーズンからシングルと並行して始めたペア競技への道が、彼を再び光の当たる場所へと押し上げて欲しいと、心から願っています。

人一倍我慢強く、努力家です。

ファンの皆様からも、彼に暖かいエールを送ってやってください。

(テキスト:長光歌子コーチ)



►►► 続いては市橋選手のペア講座。ダイナミックなエレメンツの数々は、どのように行われているのでしょうか。

新たなペアのメッカになりつつあるカナダ・モントリールで練習を積む市橋選手。そこでの体験も交えながら、ペアビギナーにも分かりやすくエレメンツの説明をしてくださいました。ペア通に一歩近づける、そんなインタビューになりました。


PP: ペアはどのような練習からスタートさせましたか?

SI: 危険な競技でもあるので、最初は2人でスケーティングを合わせていく練習です。

PP: それは2人離れて合わせていくのか、最初から2人が組んだ状態で合わせていくのか、どちらでしたか?

SI: まずは隣同士で離れないように滑る練習をしました。その2人の距離を徐々に近づけていました。その後に手を繋いでスケーティングをしました。

PP: シングルとペアでのスケーティングの違いはありましたか?

SI: シングルは1人で滑るだけなので、正直自分のタイミングとかスピードでいけばいいんですけど、ペアは2人でする競技なので。お互いのスピード、クロス(足を交差させながらストロークを行う動作)をするタイミング、姿勢の全てを合わせるのが大事になってくるので大変でした。

PP: ペアにおいて求められるスケーティングとは何だと思われますか?

SI: シングルと一緒かもしれないですけど、柔らかいスケーティングをすることが大事です。膝をしっかり曲げられているか、よく滑れているかが大事だと思います。

PP: ペアは男女の身長差が20cmや30cmになることがありますが、歩幅を合わせる難しさはありますか?

SI: 最初は苦労しましたね。でもモントリオールにスケーティングメインのコーチがいて、その先生に手の繋ぎ方や距離の保ち方を毎日教えてもらっていたら、いつの間にか意識しなくてもできるようになっていました。

PP: 同じ指導を受けているデュハメル/ラドフォード組もすごく身長差がありますが、一体感のある滑りができていますね。

PP: ペアで使う筋肉でシングルとは違うところはありますか?

SI: 腕はシングルでは全く使わないと言っていいので、ペアを初めてやったときは筋肉痛で腕が使えない状態になりましたね。

PP: 体つきも変わってきましたか?

SI: 変わったねってよく言われます。

PP: ペアに転向すると筋肉がついて体重が増えるという選手もいらっしゃるようですね。

SI: 実際僕も5kgぐらい変わりました。

PP: ペアをやるために特別にウェイトトレーニングをされていますか?

SI: 2〜3日に1回、必ずするようにしています。主に上半身がメインなんですけど、脚も大事なので全体を鍛えるようにしています。1時間ぐらい、太ももを鍛えるためのレッグエクステンションや腕を鍛えるためのベンチプレスなどいろいろやっています。

PP: 実際にエレメンツをやり始めて難しかったものは何ですか?

SI: 今もあまり得意ではないですけどスロージャンプですね。シングルのときは自分のタイミングで跳べばいいんですけど、飛ばすタイミングだったりカーブの軌道だったりが全部合っていないと上手く飛ばすことができないので苦労しました。

PP: ただ投げるだけではなくて、女性の回転にタイミングを合わせるという感じなんですね。

PP: やってみて「これ得意だな、これイケるぞ」と思ったエレメンツはありますか?

SI: リフトは最初から楽しかったです。最初から上までパッといけたのであまりリフトは怖いという思いはしなかったです。

PP: 1年目はリフトに苦労するケースも見受けられるのですが、リフトが得意だというのはすごいと思います!




► ペアエレメンツのやり方(1)ツイストリフト


PP: 次にそれぞれのエレメンツについてお聞きします。まずはツイストリフト。そもそもツイストリフトはどのように上げて回しているんですか?

SI: 基本的に、タイミングさえ合えば上まではスッといけるので、陸でずっとタイミングを合わせる練習をして、それが合ってきたら上まで一気に投げるんです。ゆっくり上にあげてたら、高くは飛ばせません。今はダブルまで成功しています。

PP: 最初に上げるのは無回転からですか?

SI: まずは無回転を何回かやって、安定してきたら半回転、1回転という風に回転を増やしていきます。

PP: 回転のかけ方はどう行っているんですか?

SI: ちょっとだけアシストみたいな。あまり僕自身が捻りすぎても向こうが回りにくくなるので、ちょっとだけ腰を持って足腰を回してあげるんです。

PP: ジャンプと同じように女子選手が軸を締めるような形なんですね。それを男子選手が補助していくと。

PP: キャッチするときに女性が上から降ってくるわけじゃないですか。それに怖さはありましたか?

SI: 無かったです。落とす方が怖いので何があってもキャッチをしようと。

PP: 練習で女性が自分の顔の上になだれかかってきたことはありましたか?

SI: 何回かありました(笑)

PP: 11年の世界選手権で、ツイストリフトをしているときにデュハメル選手の肘がラドフォード選手の鼻に当たって鼻血が出てしまうことがありましたが、そういうハプニングはありましたか?

SI: 今のところはないです。

PP: ダブルツイストとトリプルツイストの間にある壁は大きいですか?

SI: すごく大きいと思います。1回転増やすということは高さも増やさなきゃいけないし、パートナーの回転速度も速くしなきゃいけないし、タイミングも完璧ではないとできないと思うので、ダブルより全然難しそうです。

PP: そこから4回転にするのは考えられますか?

SI: そうですね(笑) テレビで観ていて、回転速度も⋯高さもすごいです!どうやってあそこまで上がるのか。いつかはできるようになりたいですけど、今は全然考えられないです。

PP: このツイストが好きという選手はいますか?

SI: 中国選手ってすごくツイストが高いじゃないですか。中国ペア全体のツイストが大好きです。




► ペアエレメンツのやり方(2)デススパイラル


PP: イギリスのアマニ・ファンシー選手が「自分がやってみてデススパイラルがどうして Death と言われるのかが分かった」とおっしゃっていました。女性が体を硬くしてアーチ状にキープするのがきついそうです。男性にとってデススパイラルの一番 Death な部分はどこですか?

SI: 英語で「死」という意味じゃないですか。練習しているときに足が抜けてしまうときがあって、手が下がって女性が頭を打ってしまうことがありました。これが最悪の場合死に繋がるかもしれないと思ったら、怖い技だなと思います。

PP: 男性が膝を深くしすぎて転倒してしまうことがあるじゃないですか。そういうことはありましたか?

SI: 何度かありましたね。

PP: 今シーズンはショートプログラムの必須要素がバックアウトのデススパイラルで、バックアウトは一番難しいと言われていますが、ご自分でされてみていかがでしたか?

SI: 練習してるんですけどやっぱり難しすぎます。フォアインはコツを掴んだのもあって、今では全然普通にスーってできるんですけど、アウトはやっぱり女性の姿勢も高くなってしまいます。インよりアウトの方が女性の足が抜けやすいので、カーブを急にしすぎてもいけないし、回転速度が遅すぎても間に合わなくなってしまうので、今はすごく練習をしています。

PP: ご自分で腰を落として回す難しさはどうですか?

SI: 結構、形にはなっていると思います。




► ペアエレメンツのやり方(3)スロージャンプ


PP: 上手くいくスロージャンプと失敗してしまうスロージャンプは投げた瞬間に分かりますか?

SI: 分かりますね。カーブが跳べてるときと違ったり、投げるタイミングや飛ばす方向がズレたなと思ったら失敗していますね。

PP: マキシム・トランコフ選手が「スロージャンプの失敗は全て男の責任だ!」とおっしゃっていたことがあるんですけど、スローにおいて、男子選手の負う責任の大きさを感じますか?

SI: 女性は男性を信頼して飛ばしてくれるのを待っている状態なので、僕たちはどれだけ女性を跳びやすく飛ばしてあげるかが大事になってきます。

PP: さきほどツイストリフトについてお伺いしたときに男性は女性の足腰を補助するとおっしゃっていましたけど、スロージャンプとツイストリフトだとスロージャンプの方が負う比重は大きくなりますか?

SI: 失敗したら⋯もう多分、「僕が全部悪い」ぐらいの感じなので。

PP: それでは、トランコフ選手のおっしゃることは、

SI: 正しいです。

PP: 同じモントリオールで練習しているデュハメル選手やヴァレンティーナ・マルケイ選手のようにソロジャンプが得意な選手は、スロージャンプの軸の作り方が上手だと思われますか?

SI: 軸が細いですよね。回転も速いです。軸がぶれない分、ちょっとバランスを崩して降りてきても立て直せるんです。そういうところを見ると上手いなと思います。

PP: デュハメル選手も軸が曲がっても着氷で立て直すのが上手ですもんね!ソロジャンプとスロージャンプの上手さは比例するということですね。




► ペアエレメンツのやり方(4)リフト


PP: 今はどの種類のリフトを練習されていますか?

SI: ハンドトゥハンド(グループ4)とトゥラッソー(グループ5)、スター(グループ3のハンドトゥヒップのリフト)を練習しています。

PP: 今シーズンのショートプログラムの必須要素がハンドトゥハンドですよね。ハンドトゥハンドリフトの難しさはどういったところでしたか?

SI: あまり難しいと思ってはいなくて、今のところはほとんど失敗せずスッと上がるんです。

PP: スターリフトはいかがですか?

SI: スターは、他のリフトとは、持つところが全然違ってくるので(グループ4もグループ5も両方ハンドトゥハンドのリフト)、バランスが取りにくいです。

PP: トゥラッソーリフトはいかがですか?

SI: ラッソーは右手を途中まで上げておいて、左手が追いついてきて最後一緒に上げるんです。そのタイミングが少しでもズレたら、右手は伸びきっていて左手だけで上まであげなければいけないので難しいです。無理やり上まであげるので筋肉を使ったり、バランスも取りにくくなっているので大変です。

PP: リフトを練習していて落下させてしまうなど、怖い思いをしたことはありますか?

SI: 今のところはないです。

PP: ラッソーリフトでもリバースラッソーなど難しい種類のものがあるじゃないですか。チャレンジされたことはありますか?

SI: まだ1回もないです。一緒にモントリオールで練習しているペアは、スッと上まであげちゃっているので、どうやったらそこまで簡単に上げられるのか、動画で撮らせてもらっています。

PP: ご自分の思い描く理想のリフトは?

SI: マーヴィン選手のリフトが大好きです。すごくスピードが速いところから一瞬で上げてしまって、そこからいろんなリフトをやりながら最後までスピードを保ったまま終わらせる。それがすごいかっこいいし上手いなと思います。僕はまだ全然スピードもそこまで出せないし、上げるのもあそこまで早くはできないので、いつかそのぐらい上手くなりたいなと思います。リフトはしんどい技なんですけど、「いかに楽に見せられるか」が僕は大事かなと思っています。上げてもしんどそうにやっていたら、見ている人からしたら大変そうだなと思われてしまうけど、軽々とやっていたら楽なのかなと思ってもらえる。そういうリフトをしたいです。

PP: トラン選手にリフトについて教えてもらったことはありますか?

SI: リフトの練習をしていたらマーヴィン選手が声をかけてくれて「もっと腰を落として、もっと深く沈めてから上げた方がいいよ」と言ってくれました。

PP: やはり上手い選手の言うことは違いますか?

SI: 違いますね。分かりやすいです。

PP: エレメンツの中ではリフトが一番体力を消耗しますか?

SI: そうですね、リフトは一瞬で終わるわけではなく、リンクの端から端までやるのでしんどいです。




► ペアエレメンツのやり方(5)スピン(ソロスピン、ペアスピン)


PP: ソロスピンはどのようにして回転を合わせていくんでしょうか?

SI: お互いが「この速さにしよう」という一定のスピードを決めて入っていきます。

PP: スピンをしているときに相手は見えていますか?

SI: 一応見えています。

PP: ズレているのも分かりますか?

SI: 分かりますね。

PP: 修正をするために自分が追いつこうとすることはありますか?

SI: 向こうが僕より速いなと思ったら、遠心力をかけてスピードを上げて合わせるようにしています。

PP: ポジションチェンジを2人合わせてやるのは難しいと思うのですが。

SI: 難しいですね。せっかく合っていても、ポジションチェンジでお互いのスピードが変わってしまってズレるということもあるので。

PP: ポジションチェンジをするときに声をかける選手がほとんどですよね。声を出していますか?

SI: 大声で(笑)

PP: あれは何とおっしゃっているんですか?

SI: 基本的にポジションチェンジをするときには「チェンジ」、足を換えるときも同じく「チェンジ」です。キャメルからシットなど姿勢が下がるときには「ダウン」、最後スピンを出るときには「アウト」と言っています。

PP: 他のチームメイトのみなさんも同じようにおっしゃっていますか?

SI: 多分そこまで皆変わりないと思います。

PP: テレビで見ていると「アッ!アッ!」と叫んでいるようにしか聞こえないので気になっていました(笑)

PP: ペアスピンは2人で組んで回りますが、どこに力を入れて回っているのでしょうか。

SI: 僕としては力というよりも遠心力が一番大事で、お互いが手を伸ばしたまま最初斜めにいて引き寄せていったら自然に遠心力がかかってきます。それで体も自然に近づいてきます。力というよりはタイミングと遠心力が大事です。

PP: 1人のスピンが2人になり1つの軸を作るという感じですね。





► ペアの見どころ
ダイナミズム・以心伝心のチームワーク


PP: 最後に、ペア競技の「ここを見てほしい」というポイントを教えてください。

SI: 同じカップル競技でも、アイスダンスは「美しい競技」という感じがします。ペアは「ダイナミック」で、また違った魅力があります。技が決まった時の「ウォーッ」という歓声、そういう会場の盛り上がりもすごく好きです。 一番の見どころとしては⋯「全部イイ」と思うんですけど、選手としてはやっぱりツイストを見てほしいです。やっていて一番難しい技なので、成功した時のよろこびも一番大きいです。

PP: 尊敬されているラドフォード選手も「ペアは競技そのものに華がある」と言われ、技が「二人三脚」であることも魅力として挙げられていました。

SI: 良い言葉ですね。組む前には会ったこともない人と「一緒に競技を志す」のは難しいです。知らない人とやっていくには、まず信頼関係を築くところから始めないといけないので。練習どうこうよりも、最初はお互いが信頼できないと絶対上手くはなれないと思います。そこがシングルとは全然違うところですね。それぞれのポテンシャルも大事だと思うんですけど、このペアという競技を志していく上で一番大切なのは『信頼関係』かなと僕は思っています。

PP: 演技でその信頼関係が一番見えるのは、どの瞬間でしょうか。

SI: ツイストとスローですね。タイミングを合わせる技なので、片方のタイミングに片方が寄せるようになると上手くはいかないんです。お互いが怖がっていたら失敗しますし。でも、信頼し合って二人のタイミングを分かり合っていたら、見た目よりも結構簡単にできる技なんですよ。

PP: その2つの技は、投げられる方の女性は怖いと思います。

SI: 例えばツイストで「(男性が)キャッチしてくれるかな?」と女性に少しでも不安があれば、やっていてこっちにも分かるんです。言われなくても伝わります。だから、『どこまで信頼してもらえるか』、そこを僕は頑張っています!


Riku MIURA 三浦璃来 Shoya ICHIHASHI 市橋翔哉 © Pigeon Post
L Riku MIURA Shoya ICHIHASHI R
@ Kansai University Ice Arena




► 2015年9月3日 練習リポート


15分間のストレッチの後、佐藤信夫先生・久美子先生の大きな幕が両端から選手を見守る関西大学アイスアリーナでの練習が始まりました。始めに、ノービスの選手が曲かけ練習をしている中でスケーティング。10分ほどして、リンクの端でループ(ターン)の練習を繰り返し行っていました。ジャンプ練習が解禁されると、本田武史先生からルッツの指導を繰り返し受け、美しいジャンプを成功させました。今シーズン、シングルとペアを掛け持ちする市橋選手。シングルのSP"ウエストサイドストーリー"を曲かけで滑りました。曲かけ後もトリプルジャンプを1種類ずつ確認するように反復練習。最後はクリーンな3回転トゥループで練習を締めくくりました。



☞ 若松詩子先生解説記事 〜国別に見る〜有力ペアチーム


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