
thanks to: NORAYA ノラヤ (NAHO YAMAMOTO) for her whimsically in-style frame
posted on June 23, 2016
title: アイスダンス 魅惑のステップシークエンス15-16
リスト作成: 海鳩オッコ(オッコ@ppsk8)
今季 ☞ ステップのルールに関する記事(ステップのルールを極めてアイスダンスを楽しもう on J SPORTS 都築奈加子先生解説) をお届けできたので、それが活き⋯てはいない、ただひたすらに個人的なツボを押されたステップシークエンスを推しに推すリストです。自重せずフルスロットルでまいりますが「そんな見方もあるんだふぅん」とお楽しみいただければ幸いです。
※曲名は、わかるものについてはステップ中の音楽を記載しています※
1) パーシャルステップシークエンス(PSt): パイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組(24/24、カナダ)『Ob-La-Di, Ob-La-Da(by The Beatles)』
なんと最終戦の世界選手権直前にプログラムを変更。それまでバロック音楽を使用していたPStも含め、使用曲をすべてビートルズのナンバーで揃えました。結果、心が弾むステップシークエンスオブザイヤーを進呈したい仕上がりに⋯これを数週間で⋯信じられません!
入り口になるストップ自体はあっさりした振付なのですが、その前に音楽が変わって行進→手拍子といった一連の振付と流れを持たせるアイディアからすでに脱帽。頭頂ホールドツイズルなど、ハイライトになる動きを踏襲していても印象が全く違います。
以前はバロックのダンスということで、腕の振付を厚くした中で多彩にホールドチェンジをしていく、それはそれで難しい構成だったと思いますが、今回はアクセントを「脚」に持ってきたことが一つの勝因に思えました。腿上げ、スイング、後ろにクイクイッと振る動きなど、絶えず動くフリーレッグが印象的なパートの邪魔をせず密度を上げる効果を生んでいました。また、それを繰り返し入れるところに、オリジナルセットパターンの雰囲気が思い出され、懐かしくも新鮮という曲の雰囲気にぴったりのシークエンスでした。
そして【祝】こちらのSDの一部が、新たなパターンダンスの候補として今後ISUに提案されることになったそうです!そのままの形にはならないでしょうが、印象的なホールドや動作を、将来課題として見る日が来るかもしれません。
☞ 世界選手権ショート 検索キー: GILLES/POIRIER World 2016 SD
2) PSt: ヴィクトリア・シニツィナ/ニキータ・カツァラポフ組(21/24、ロシア)バレエ『白鳥の湖』
まごうことなきオデットがそこに。168cmの長身、理想的なスタイル、そして超美人と、どう見てもゴージャスなシニツィナですが、このPStはとてもエアリーで軽快。爽やかで清楚な魅力が強く輝いて、こういう演技がハマるのかと目から鱗の気分です。
ストップの振付から駆け出すように入り、シニツィナがすぐツイズル。このあたりですでにグッと掴まれるのですが、その後のカツァラポフのLFIから右脚を後ろにクロスして(オシャレ)、深いRFIからRBIへのロッカー、脳内アメリカ人実況が「イィンサァァイドエェェッジ!!!!」と叫び出すようなその足首!序盤からただただ引き込まれます。ステップ自体の構成は、変形のホールドが多く用いられ、右へ左へと2人が入れ替わり楽しく幸福な印象を強めます。昨季とは違うぞ!というところをひしひしと感じました。
☞ ショート 検索キー: SINITSINA/KATSALAPOV World 2016 SD
3) PSt: アナスタシア・カヌーシオ/コリン・マクマナス組(23/26、アメリカ)バレエ『シンデレラ』より『The Clock』
ワルツが終わって、音楽が変わりカヌーシオが正面に腕を伸ばして始まるストップの振付に⋯「あぁ12時になる!!」観るものをドキドキさせるような、ドラマティックなシークエンスです。
イナバウアーまではぴったり揃った動き。2人の動きが分かれるところから、マクマナスは王子からシンデレラを追い立てる「時」になったのでしょうか。1小節を綺麗に2分割するブラケット、まっすぐ伸ばした腕の時計の針のような動きなど時を刻み始めます。ツイズルからシット姿勢にすべり降りるようなムーブ、パッパッというトランペットの音に合わせて2人揃った首振り、音が広がるところでの小さなリフトでの1回転。本当に音楽をうまく使っています。そして演劇的にストーリーを表しながらも、追い立てられて前へ、前へという全体の動きがマーチになっているところに感心しました。
☞ ショート 検索キー: CANNUSCIO/MCMANUS Skate America 2015 SD
4) ジュニア・ノットタッチステップシークエンス(NtStSq): レイチェル・パーソンズ/マイケル・パーソンズ組(18/20、アメリカ)バレエ『シンデレラ』より『Cinderella's Departure for the Ball』
まだジュニアの選手だと、「ここでレベル取りにきているな」とわかったり、音楽の展開に完全にはステップが合っていなかったりすることはよくあります。
しかしこのシークエンスは最初から最後までよどみなく音楽にはまり、気持ち良く美しいために驚かされたのでした。ワルツの3拍子に合わせてスイングを入れたり、ルール上は2回転でもいいツイズルを3回転にしてみたり。フリーレッグを高く上げて一度クライマックスを迎えることで、続くワンフットセクション(片足での連続ターン)が浮かずに良く馴染みます。
構成自体優れていましたが、中でも世界ジュニア選手権の揃いに揃ったステップは驚異の一言でした。ここまで2人の心が寄り添うと、実際には距離が離れている(触れてはいけないルールです!)のに、まるでホールドしてワルツを踊っているような錯覚すら!
☞ 世界ジュニア選手権ショート 検索キー: Parsons/Parsons World 2016 SD
5) ジュニア・NtStSq: エリアナ・ポグレビンスキー/アレックス・ベノワ組(18/20、アメリカ)『My Sweet and Tender Beast』
静かに盛り上がっていく音楽が一度途切れた静寂の間に、キリアンホールドからそっと女性を送り出すようにサーキュラーステップへと入っていく。この入り口の工夫が、ステップシークエンスだけでなく、プログラムの価値を何倍にも高めています。
彼ら曰く、このSDのストーリーは、男性(ベノワ)が女性(ポグレビンスキー)をそれまでの抑圧的な世界から連れ出し、彼女は生きることや愛することの喜びに満たされていく⋯というものだそうです。エレガントなステップ中に、男性に見守られ支えられながら、だんだんと自分らしさを見つけ心開いていく様がよく表されています。
ただ、ここまで書いておいてなんですが、選んだNtStSq2つともリズムがワルツ。⋯単純に私がワルツのNtStSqを好きであるだけ感は否めません!☞ ISU公式動画 ジュニアグランプリシリーズ・スペイン大会SD
6) StyleA: ケイトリン・ウィーバー/アンドリュー・ポジェ組(27/29、カナダ)『This Bitter Earth/On the Nature of Daylight (Dinah Washington/Max Richter; mash-up by Robbie Robertson)』サーキュラーステップシークエンス
スタイルAの厳しいレベル要件は、時にその構成を制限します。確実にレベルを取るために、技術的には難しいものの「置きに行く」構成⋯プログラムの中でそこだけ物語が停滞しているような印象になることも少なくありません。厳しい条件下でどうステップをハイライトにするのか?
2シーズン見て、この組を「スタイルAの名手」と個人的に位置付けています。前シーズンの『四季』の、春の歓びと恋する男女のときめきが伝わるようなシークエンスも素晴らしかったですが、今季の重く痛々しいシークエンスも魅力的でした。正直なところ、私はこのフリープログラムにバチッと来る解釈を持ててはいないのですが、それでもこのステップシークエンスに焦点を当てて見れば、怒涛のように感情や物語が伝わってきます。
例えば、序盤の2人が位置を入れ替えながら進んでいくワンフットセクション。フォックストロットホールドから、ロッカーターンで位置が変わった後に、一度腕を伸ばした位置までホールドを緩めてから引き戻します。外周を回るウィーバーは大きく揺られるようなS字のトレースを描くことになり、その揺らぎが悲嘆の激流になすすべもなく翻弄される姿に見えました。
一歩一歩が辛く、苦しく、目を伏せたくなるほどに悲痛。しかし一歩一歩、痛みを受け入れながら、克服していく。最初はポジェの姿すら見えてなかったような彼女が、だんだんと寄り添い支えられることを受け入れ、再生していく。なかなか見られるものではない、深い精神性を感じるステップでした。
☞ フリー 検索キー: WEAVER/POJE Team Challenge Cup FD
7) StyleA: フェデリカ・テスタ/ルカーシュ・チェレイ組(22/26、スロヴァキア)『Kutlama (by Mr. Avant Garde Folk)』ミッドラインステップシークエンス
映画『マレーナ』の音楽を使い、南イタリアの空気感と大人の恋模様を描くプログラムの中で、このステップだけが別の音源。それを感じさせることなくうまくプログラムにはまっています。街一番の色っぽい美女を口説きにかかる男性と、それをあしらっていた女性。ひょんなことから手に手をとって踊ることになり、駆け引きのつもりがだんだんと心が近づいていく⋯そんなダンスシーンを見ているよう!映画的に感じる「場面」としてのステップに魅力を感じました。
☞ フリー 検索キー: TESTA/CSOLLEY European 2016 FD
8) StyleA: シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(26/28、イタリア)映画『シンドラーのリスト』サーペンタインステップシークエンス
サーペンタインとは、蛇のように大きくS字の軌道を描くステップです。種類としてはカーブド・ステップ・シークエンスの一つで、多くの組がもう一つのサーキュラーステップを選びがちなため、ここ数年はマイナーな印象でした。
今季は2年前のレベル要件の変更の影響が出始めたのか、サーペンタインを選ぶカップルが急増した印象があります。その中でも、なぜサーペンタインなのか、サーキュラーステップとのプログラム内の意味合いの違いを明確にできたのがこの組、このプログラムでした。大きな軌道の揺らぎは、時代や運命、物語の"うねり"へとつながるのです。
構成も優れていて、リンク左隅(どこの映像でもちょうどカメラの前!)でファブリがふわりとギニャールを持ち上げ1回転し、2人で天を見上げ手を伸ばす⋯メインテーマの1フレーズで観客の意識は悲劇の中へと絡め取られます。ホールドの一つ一つに感情がこもり、それはもうダンスホールドではなく「抱き締める」「縋る」「支える」人の心のつながりを見ているよう。
このシークエンスで浮かび上がる、運命の波になすすべもなく翻弄されるしかない男女の姿⋯しかし、弱々しくも支え合うその姿に共感が生まれ、その後のドラマティックな展開がより胸に迫って来るのではないでしょうか。
☞ フリー 検索キー: GUIGNARD/FABBRI World 2016 FD
9) StyleA: ナタリア・カリゼク/マクシム・スポディレフ組(20/22、ポーランド)『Crystallize (by Lindsey Stirling)』サーペンタインステップシークエンス
彼らの魅力は「ヌメヌメとした」伸びのあるスケーティングです。このヌメリ感×ダブステップのトリップ感×奇妙なまでに個性的な振付=「不思議と気持ちいい」!
その気持ち良さの最たるところがこのサーペンタインステップによく出ています。ランから入っていきなりRFIでニュ〜ッと深いカーブを描きLBOへチョクトー。足を踏み替え方向転換したら、今度は左足をスイングしながらRFOでヌーンと滑りLBOへモホーク。右足に踏み替えて足首をグネッと曲げ、深いインサイドエッジに乗ってみせてからツイズル。オノマトペが湧きに湧くその滑り、膝の屈伸でステップをガンガン進めていく快感。(振付とともに)上体を左右に振って体ごとエッジを倒していくのではなく、腰から下が振り子のように動いて重心移動しながら進んでいく、例えるならアルペンスキーの回転を見ているようなステップは、コンパルソリーの名残を感じて個人的に好物です。
このカップルのSDの、フォックストロットを使ったPSt(こちらも是非見ていただきたい素敵なもの!)も新パターンダンスとして提案される流れだそうで、東欧の綺羅星に今後もご注目ください。
☞ ロシア連盟公式動画 ISUチャレンジャーシリーズ・モルドヴィアンオーナメントFD
10) StyleA: ロレイン・マクナマラ/クイン・カーペンター組(17/20、アメリカ)オペラ『カルメン』より『アラゴネーズ』サーキュラーステップシークエンス
プログラム最初のエレメンツには「つかみ」になるもの、かつ体力があるうちに終わらせたいものを選びたいところ。多くの組はリフトかツイズルを選択するところ、この組はいきなりサーキュラーステップから入ります。「つかみ」など最初のお芝居と、アラゴネーズの出だしに合わせた小さなリフト(つまり、つなぎの振付)で十分!というこの姿勢が、貫禄を見せつつシャレているジュニアチャンピオンです。
メロディに合わせて流れるように入っていくステップシークエンスは、これまた端々まで驚異的に音楽に合わせて構成してあり本当にオシャレです。特に後半、ワンフットセクションのロッカー→ブラケット→カウンターから入るツイズルの旋律への合い様!出口の小リフトも完璧なタイミング!終盤までぴったり音をとってステップしている証拠で、いつ見ても鳥肌が立ちます。
☞ ISU公式動画 ジュニアグランプリシリーズ・アメリカ大会FD
11) StyleA: アナスタシア・シュピレワヤ/グリゴリー・スミルノフ組(16/19、ロシア)ミュージカル映画『シェルブールの雨傘』ダイアゴナルステップシークエンス
シュピレワヤが人差し指を立てて2人イナバウアーで流れていくと、「♪Non, je ne pourrai jamais vivre sans toi⋯(あなたなしでは生きていけない)」。有名なフレーズが重なりステップに入っていく出だしから胸が疼きます。ワンフットセクションを男女で分けて配置したり、音に合わせて細かくフリーレッグの動きを変えてみたりと、随所に工夫を散りばめ、歌での会話を、見事にダンスでの会話へと変えてみせました。イナバウアーがステップ中にも3回、ところどころに入るのですが、これがまた効果的。切ない気持ちを訴えかければ、他方は優しく受け止め呼応する、寄り添う男女の心情がヒリヒリと伝わってきます。甘く切ないノスタルジーを誰の心にも蘇らせる名プログラム、名ステップシークエンスだと思います。
12) StyleB: ガブリエラ・パパダキス/ギヨーム・シゼロン組(21/21、フランス)『To Build a Home (by The Cinematic Orchestra)』ダイアゴナルステップシークエンス
誰しも魅了するスケーティング、全身を伸びやかに使った踊り、深い音楽性。プログラムを通して革新的に上質で、かつ普遍的な美しさを持った、芸術的な演技を見せてくれる彼ら。そのプログラムの中で、(当時)20歳と21歳の、この若々しいステップシークエンスが好きです。若いことは未熟ということとイコールではなく、放てるエネルギーの量が多いということ。前半の沈鬱さから打って変わって、躍動する生命力が溢れてくるかのようです。まるで振付などないかのように、内側から自然と踊りが湧き出てくるから、作り物ではないパパダキスとシゼロンという踊り手の素に触れている気持ちが湧くのでしょうか。
13) StyleB: 小松原美里/アンドレア・ファブリ組(23/23、イタリア)『Sikuriadas (by Inti-Illimani)』ダイアゴナルステップシークエンス
非常にチャレンジングなプログラムで、初見の際は「おおっ!?」と驚いてしまいました。『Dolencias』から『Sikuriadas』へ⋯この音楽を聞いた古くからのアイスダンスファン(特に欧州ならばなお!)は間違いなく、ある作品を思い出します。デュシネー兄妹(フランス)の『Missing』(1989-90シーズンFD)——アイスダンス史に残る、不朽の名作です。ファブリが彼らへの敬愛を込めて選曲したというこの作品は、衣装の時点からわかるようにフォークロア色を全面に出した、「Misato & Andrea」のプログラムに仕上がっていました。
このダイアゴナルステップはその最終盤、最も盛り上がるところに配置されています。だんだんと速くなる旋律に合わせて、素晴らしいスピードで飛び込み、両手をつないでスライドするようなダイナミックな振付も盛り込んでいます。特に面白いのが、スタイルBで許される逆行の直前に入れた、ファブリのT字ストップ。これが完全にストップした振付に見えてしまえばルール違反です。小松原選手の途切らせない動きと、T字ストップの次の動き出しをスムーズにすることでステップの連続性を持たせ、氷を削る「ジャッ」という音を効果的なアクセントにしていました。
このカップルは残念ながら、2015-16シーズン限りで解散となりました。小松原選手はティム・コレト選手(アメリカ人ですが、前所属国はノルウェー)と新たにカップルを結成し、3シーズンぶりに日本代表!として次シーズンを戦うことが発表されています。拠点は変わらずミラノ、フーザル=ポリコーチの下だということで、斬新で面白いプログラムを次は日本で見せてくれるでしょう。大変、楽しみになってまいりました!
14) StyleB: コートニー・マンスール/ミハル・チェスカ組(21/23、チェコ)『Song of the Spirit (by Adiemus)』ダイアゴナルステップシークエンス
こちらは唯一の『魅惑されたかったステップシークエンス』です。欧州選手権から後半の音楽を変更し、アディエマスの『魂の歌』にしたのが大正解。ネジ巻き人形が命を持って動き出すような不思議な世界観を生かしながら、後半にしっかりと盛り上がりを持たせることができていました。このダイアゴナルステップは、最終盤のクライマックスに向けて見事なクレッシェンド(音楽記号:だんだん大きく)を作る役割。ホールドチェンジの複雑さにはやや欠けるものの、ステップへの入り方、フレーズの使い方、小さなリフトからシットポジションのマンスールを揺さぶる印象的な振付など、スタイルBで見たい自由な発想に溢れていました。欧州選手権では序盤でバランスを崩してしまい、世界選手権ではFD進出ならずと、完成形はついに見られず非常に心残りですが、おすすめしたい魅力的なシークエンスです。こういうこともあるのがスポーツ。是非ご覧になり、私と共に口惜しさに悶えてください。
☞ 欧州選手権フリー 検索キー: MANSOUR/CESKA European 2016 FD
15) StyleB: マイア・シブタニ/アレックス・シブタニ組(21/25、アメリカ)『Fix You (by Coldplay)』ダイアゴナルステップシークエンス
速く綺麗な回転、流れるような移動、寸分の狂いもなくぴったりとシンクロした4連続のツイズルは、彼らの代名詞と言えるエレメンツです。実際に今季のプログラムでも、音楽の変化とともに爆発的な盛り上がりを生み出します。しかし、このプログラムのクライマックスはそのツイズルの瞬間ではありません。ツイズルから怒涛のチェンジ・オブ・ペース、そして最終盤のダイアゴナルステップに向かい手を取り合って駆け出す←ここでしょう!どの会場でも、この何気ないランに歓声が沸き、観客の感動と期待のボルテージが頂点に達した状態でダイアゴナルステップへと続いていくわけです。
その感動を約30秒間、最高のまま維持するには、どれだけ派手なステップがくるのかと思わせて、これがまた唸るほどに正統な直球勝負。キリアンとワルツホールドを入れ替えながら2人が似たステップを踏んでいきます。その距離は限りなく近く、一体になって見えます!
ここで2人が一つに見えるのは、技術の賜物というだけでなく、ステップ前までのトランジションをほぼハンドインハンドで構成という布石を打っているから。ダイナミックな広がりのある動きで、右に左に位置を入れ替えながら観客を巻き込み、その熱狂を纏ってステップに入り、2人がごく自然な流れで一体となるホールドを組む⋯観客の意識ごと、一体となる。まさに吸い込まれる構成と言えましょう。
そしてステップ後半、小さなリフトからミラー回転のツイズルでまた観客の心に火を灯し、大団円へと向かっていきます。マイアとアレックスの物語だけではなく、観る者すべてを包み込む『Fix You』となって、心の深くに染み渡っていくのを感じました。
16) StyleB: アッラ・ロボダ/パヴェル・ドロースド組(17/20、ロシア)『Paganini 5 (by Edvin Marton)』ミッドラインステップシークエンス
最後に、私の中で"2015-16シーズン名場面"のステップシークエンスを選びました。
万全に磨き上げて挑んだ世界ジュニア選手権、SDの最終盤での悪夢のような転倒。昨季も国の代表を賭けたロシアジュニア選手権で転倒、世界ジュニア選手権出場を逃すという辛酸を舐めました。SDを終えた後の失意はいかほどか、計り知れません。そういう時、失敗を重ねる恐怖から演技が小さくまとまったり、取り返そうという思いが空回りして2人がバラバラになったりというケースを多く見てきました。しかし、大きな失望を乗り越えベストパフォーマンスへと昇華させる例があります。
前置きが長くなりましたが、守りに入る気はない素晴らしいスピードで前半の情熱的な歌のパートを滑り切った時、グッと見る側にも力が入ります。そこで音が途切れ、エドウィン・マートンの唸るようなヴァイオリンが演技のペースを変えます。焦燥感を煽るような音に合わせて一段とスピードを上げ、さあミッドラインステップへ。
長い脚を目一杯傾けてブラケット、チェンジエッジして左右踏み替えてからチョクトー。タイミングもフリーレッグの角度もぴったり揃います。ホップした後の、ドローストがロボダを斜めに支え巻き込みながら、イーグルからフリーレッグを蹴り上げるようにスリーターンするところは、個人的2015-16カッコイイ振付セレクションのベスト3入り。ここからすぐさま移るツイズルが決まった時の血が滾ることといったら。このプログラムのために伸ばしたのであろうドローストの巻き毛はなびき、ロボダの軽い素材感のスカートの裾が舞い上がります。視覚的にも疾走感を加え、最後まで駆け抜けたステップ。
まだ荒削りな演技かもしれません。しかし、そこから生まれた熱い感動は、芸術でありかつスポーツである、この競技を見てきてよかったと思わせるものでした。
☞ 世界ジュニア選手権フリー 検索キー: LOBODA/DROZD World 2016 FD
*最後に*
改めて注目してみると、各組ステップシークエンスには驚くほどにさまざまな工夫を詰め込んでいることがわかります。足元、ホールド、レベルには関係しないところの動作、表情。風を切る衣装の美しさ。点数的にも、印象的にも、ステップシークエンスはアイスダンスの花形です。
ですが、もちろん今回上がらなかったプログラムの中にも、素敵な演技はたくさん見つかります。構成をシームレスにするためにも、あえてステップにハイライトを作らないというのも一つの選択です。
来季はまたルールが変わり、シニアSDではパターン・PStに加えNtStSqが戻ってきます。ステップ天国!そしてシニアで初めて、課題のリズムにヒップホップが加わります。想像を超える独創性のぶつかり合いになりそうなシーズンが、今から待ち遠しいです。
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