
thanks to: NORAYA ノラヤ (NAHO YAMAMOTO) for her whimsically in-style frame
posted on June 23, 2016
title: 私にとっての15-16シーズンベスト1プログラム
羽生結弦EX『天と地のレクイエム』
絵/文: 宇佐見咲子(咲子@ppsk8)
この機会に是非特筆させて頂きたいと思った作品は、ベスト1と称しつつも順位付け出来ない域で私の心に強く刻まれたプログラムとなります。
それは、羽生結弦選手(21)が東日本大震災の被災地の人々へと、その心の全てを込められたエキシビションナンバー『天と地のレクイエム』です。
私は昨年7月の神戸で開催されたファンタジー・オン・アイスにて、この作品を初めて観させて頂きました。新しいプログラムが多く披露されるアイスショーなので、どのスケーターの演目も先入観を持たずに観たいと思い、何の事前情報も頭に入れることなく会場へ向かいました。
そして、ショーの最終滑走者である羽生選手が氷の上に現れ、去られるまでの間の、その総て。同じ空間で感じたその「壮絶な感情の気配」に、自分の内側が崩壊する思いでした。
ひとつひとつの、一瞬一瞬の、指先・つま先に至るまでの氣、表情、飛び散る氷屑。全てが衝撃をもって心臓に突き刺さって来るこの作品は、「美しい」と表すより、「苦しくて、つらい」。
あまりの胸苦しさに泣き崩れながら、「これは、人間が氷の上で出来うる感情表現・芸術表現の限界なんじゃないか」とすら思いました。前述通りこの時は、作品が震災への鎮魂歌であるとは存じ上げずに観ていたのですが、包み隠されることなく放たれる踠(もが)きが、これでもかというほどダイレクトに、底のない悲しみを伝えました。抽象的なものなど何もなく、むき出しだったのです。違う見解はあるかもしれません。しかし私はそう感じました。
羽生選手の演技直後、ショーはフィナーレへと向かったのですが、私の心は全く、その笑顔の大団円に入ることの出来ない状態でした。
絶望という感情はきっと誰もが知っているものであり、でも、私たちは皆、「悲しみ」という自分の中に流れているはずの音楽を、他人には聴こえない場所に隠そうとしている。
それを抗いようもなく痛みと共に引き摺り出されるような、こんな哀しいエネルギーを持ったフィギュアスケートプログラムがかつてあったでしょうか。
その後、ようやくプログラムについて確認し、使用されているのは松尾泰伸さんが震災を悼んで作曲された『3.11』という楽曲であるということ、フィギュアスケート作品化するにあたり『天と地のレクイエム』と名付けられたこと、宮本賢二先生の振付であるということを知りました。
日本人だからこその思い・感性・琴線の絡みによって完成された作品なのだと、強く納得しました。
そして、新たに始まるシーズンの多くの試合で、羽生選手がこの「痛み」を大切に創られた素晴らしいエキシビションを、世界に向けて届けられる機会を得られるようにと心より願ったのです。
TV画面の中で、今もまだ瓦礫の残る地に佇む羽生選手の姿を見るたび、背負いすぎず、ご自身のために滑ってほしいと思ってしまうのですが、彼が故郷・東北の人々の悲しみにどこまでも近づいて歩むことを選ばれるのならば、きっと、彼にとってはそのことが本当の幸せなのでしょう。
私たちは日本で生きるかぎり、常に震災に脅え続けなければならない。
でも、このつらく哀しいプログラムは、ただひたすら生き抜けば、何か一条でも光が待っているのかもしれない、そんな祈りを最後に感じさせるのです。
どんなに立ち上がれないほど打ちのめされても、「生きる」というチャンスが自分に残されたのならば、決して諦めてはならないと。
EX"Requiem for Heaven and Earth" ☞ 拡大 enlarge
title:「心に刺さったPigeonPostフィギュアスケート記事」のレビュー
リスト作成: Paja(Paja@ppsk8)
実は私、このところ満足にフィギュアスケートの試合や中継を見ていません。PPのインタビューや試合レビューを読んで結果や内容を知る有様です。そんな私がグッと来たインタビューやレビューの感想をグッと来た箇所とともに綴る、15-16シーズンPP記事リストです。
1) ペア・市橋翔哉選手(18)インタビュー
「マキシム・トランコフ選手が『スロージャンプの失敗は全て男の責任だ!』とおっしゃっていたことがあるんですけど、スローにおいて、男子選手の負う責任の大きさを感じますか?」
(「ペアエレメンツのやり方(3)スロージャンプ」で飛び出した記者の質問の一部)
私は漠然と「男性はちょっと手伝うだけ」くらいに思っていたのですが、スローの成否に関しては男子選手の責任が非常に大きいのだそうです。市橋選手も「失敗したら⋯⋯もう多分、『僕が全部悪い』ぐらいの感じなので。」とおっしゃっていました。スローの他、ツイストリフト・デススパイラル・リフト・スピンについても語られていますが、男子選手目線のこうした技に関するお話はあまり聞いたことがなく非常に新鮮でした。日本でもお馴染みのビッグネーム達がモントリオールのチームメイトとして次々に出てくるのも豪華で楽しい内容。質問にからめて選手の名言や豆知識をぶちこんでくる記者の博識にも注目です。
☞ ペア・市橋翔哉選手インタビュー 後編 on J SPORTS(担当: Pigeon Post 記者チーム、島津愛子、海鳩オッコ)
※このインタビューを読んだ上で、「☞ ~国別に見る~ 有力ペアチーム on J SPORTS(担当: 海鳩オッコ)」で若松詩子先生が解説された中国チームの特徴を読むと、さらにペアの技について理解が深まった気分になれます。
2) 女子シングル・永井優香選手(17)インタビュー
「あっ、知っていますか。嬉しい。」
(今までのベストパフォーマンスを問われ、マイナーだからと敢えて口に出さなかった2013年都民大会のフリーを記者から挙げられた際、永井選手が発した嬉しい驚きの言葉)
ご本人曰く「唯一フリーノーミス」で「自分の中では心に残って」いるとのこと。「昨年の東日本選手権で、樋口新葉選手をお膝だっこして観戦」していたことまで把握している記者の情報収集力が引き出したスクープではないでしょうか。他に女子高生スケーターとしての普段の生活が垣間見える内容も楽しいです。また最後に関コーチのコメントがありますが、平昌五輪を見据えてご指導をされているのがよくわかります。永井選手の今季の成績もおそらく想定の範囲内なのでは。来シーズン、その先が非常に楽しみになりました。
☞ 女子シングル・永井優香選手インタビュー on J SPORTS(担当: 江口美和)
3) ロシア女子シングル・メドヴェージェワ選手(16)インタビュー
「演技では、"世界には、愛、相互理解、助け合いがあるべきだ"ということを伝えようとしています。どんな言葉で話すのか、どんな民族なのかは関係ありません。」
(15-16シーズンプログラム紹介で、FS『愛が世界を救う』についてメドヴェージェワ選手が語った言葉 の邦訳)
今季シニアデビューとは思えない演技で世界を席巻したエフゲーニャ・メドヴェージェワ選手、インタビューの内容も十代の女子とは思えないしっかりしたものでした。ファンに向けてのメッセージもなにやら崇高で⋯なぜ普通の選手にありがちな「応援よろしく」ではなく、フィギュアスケートの未来、ひいては私たちの人生に影響を及ぼすかのような内容なのかと。文化の違いなのかなとこれまでは思っていました。しかしワールド(世界選手権)後、日本のテレビインタビューで彼女が「セーラームーン」大好きだと語った今では、これらの言動も「彼女がセーラー戦士だから」と考えるとしっくりきます。年齢的にもそうだし『愛が世界を救う』というコンセプトもそう。我々は知らない間に彼女に救われていたのです。ありがとう。そんなメドヴェージェワ選手はセーラープルートくらい落ち着いて見えますが、自らメディアを引きとめてアニメ主題歌を披露するあたり、実はうさぎちゃんみたいなウザかわいらしい一面があるのかも。お気に入りのキャラクターとかいるのでしょうか。
☞ ロシア女子シングル・メドヴェージェワ選手インタビュー on J SPORTS(担当: たかふみ)
4) 男子シングル・小塚崇彦選手(当時26)インタビュー『思い切り、闘志を持ってやる』
「トレーニングもしながら体だけはキープしていたんですけど、やっぱりスケートで養える筋肉と陸上で養える筋肉っていうのは違うんだな、と感じながらやっていて。」
(小塚崇彦選手、ロシア杯に入るまでのこととロシア杯で感じられたことを聞かれて)
このあたりのお話は競泳選手みたいだなと思いました。「スケート」を「水泳」に、「滑り込む」を「泳ぎこむ」に、その他諸々脳内変換して読んでみてあまり違和感がなかったので⋯フィギュアスケートもやはりスポーツなんだな、と改めて感じました。そしてこうした感覚を的確に言葉で伝えられる小塚さんはとても聡明なアスリートだったな、と。もちろん優れたスケーターであることは言うまでもありません。個性や芸術性が目をひきがちなフィギュアスケート界の中では地味な印象があったかもしれませんが、足元(スケーティング)だけで曲想を表現できる数少ない選手でした。かようにまんべんなく優秀な小塚さんですから、おそらくどんな分野でも活躍できると思います。今はトヨタの一社員として、為替に翻弄される自社株をひそかに憂いながら日々頑張っているのでしょうか。小塚さんの新しい人生に幸あれ。
☞ 男子シングル・小塚崇彦選手インタビュー on J SPORTS(担当: たかふみ、島津愛子)
5) 【欧州フィギュアスケート選手権2016】男子シングル総括
「2本目の4回転では転倒し、ここまでか、と一瞬思った。しかし、ここからだった。」
(欧州選手権男子シングル2位、アレクセイ・ビチェンコ選手フリーの描写)
ハビエル・フェルナンデス選手4連覇、フローラン・アモディオ選手現役最後の演技とそれに伴うモロゾフコーチの号泣、マキシム・コフトゥン選手の「なんとも斬新な」FSと見どころの多かった大会ですが、イスラエル代表の若手とベテランの争いもひとつのハイライトでした。これまでダニエル・サモヒン選手(若手)に押され気味だったビチェンコ選手(ベテラン)がここ一番で見せた粘りの演技が、直接対決を制しただけでなくイスラエル初のユーロ銀メダルにたどりついたというなんともドラマティックな流れ。それが少年ジャンプを思わせる劇的なストーリー性をもって描かれていて、手に汗握る思いで読みました。
☞ 【欧州フィギュアスケート選手権2016】男子シングル総括 on J SPORTS(担当: 山内純子)
6) 【欧州フィギュアスケート選手権2016】女子シングル総括
「この大会は彼女にとって忘れがたいものになったかもしれない。」
(欧州選手権女子シングル2位、エレーナ・ラジオノワ選手レビューの出だしの一文)
優勝したメドヴェージェワ選手、3位のアンナ・ポゴリラヤ選手に比べて、記者はラジオノワ選手の項に多く言葉を費やしていません。しかし短いながら選手(と記者)の無念さが滲み出ているようでした。彼女ほどの選手がノーミスでも優勝できない。しかもミスをした相手に勝てない。勝負の残酷な側面をまざまざと見せつけられます。しかし続くポゴリラヤ選手のレビューがそんな非情さを和らげてくれます。「持ち前のダイナミックな転倒」という描写は二重の意味でスリリングで、このフレーズ個人的には大変気に入っていますが、大手メディアの目に留まって悪ノリで濫用されないことを祈るばかりです。
☞ 【欧州フィギュアスケート選手権2016】女子シングル総括 on J SPORTS(担当: 山内純子)
7) 【全米フィギュアスケート選手権2016】女子シングル総括
「しかし、表彰台での姿はとても幸せそうに見えました。」
(全米選手権女子シングル2位、ポリーナ・エドマンズ選手の表彰式での様子を伝えた一文)
こちらもSP・FSとパーフェクトな演技を揃えながら優勝できなかった、というパターンです。エドマンズ選手はSPを首位で折り返すも、フリーで会心の演技を見せたグレイシー・ゴールド選手に「歴史的な逆転勝利」(by 中庭健介さん)を許し2位に。しかしこちらのレビューからは悲壮感が感じられません。美しく成長した様子、流れるような演技と表彰台の描写に救われます。スカーレットさながらのビジュアルも目に浮かぶようでした。ちなみに3位アシュリー・ワグナー選手、彼女らしい気合の入った演技だったのでしょう、レビューにも記者の大変な気合と愛情がこもっていました。全米女子シングルの華やかさが伝わってくるような記事でした。
☞ 【全米フィギュアスケート選手権2016】女子シングル総括 on J SPORTS(担当: 宇佐見咲子)
8) 【四大陸フィギュアスケート選手権2016】男子シングル総括
「少なくとも毎試合で経験できる類のものではなく、今後もドラマティックな試合として挙げられる大会となったことは間違いないだろう。」
(これぞまさに総括)
四大陸選手権男子シングル・フリー最終グループの2人の演技と結果については、そう簡単に文章にできるものではありません。とにかくすごいことには間違いないが、この物凄さどう言ったら伝わるだろう?伝えたい情報もありすぎます。ジュニア上がりのボーヤン・ジン、暫定トップ、4回転3種4本、史上初、あのパトリック・チャン、最終滑走、ノーミス、劇的な結末、会場の熱気⋯。それらをよく練られた文章で説明し「その様を言葉で言い表すことは難しいが、」と前置きしたうえで付け加えられた、これ以上ないくらい的確な一文に唸りました。
☞ 【四大陸フィギュアスケート選手権2016】男子シングル総括 on J SPORTS(担当: 下川カスミ)
9) 【世界フィギュアスケート選手権2016】アイスダンス総括
「⋯⋯それはまさしく、ビッグ・バン!」
(フリーダンスでマイア・シブタニ/アレックス・シブタニ組が見事なツイズルを披露した瞬間の会場の様子をたとえて)
演技開始直前からツイズルを終えたところまでの数分間だけを、会場の雰囲気も含めとても丁寧に詳しく、感受性豊かに描写しています。余計な情報が一切ありません。演技の描写が途中で終わっているのはおそらく字数制限の関係もあるでしょうが、記者の「この素晴らしい演技は絶対実際に見てほしい」という気持ちの表れなのかなと感じました。全部書いたら見てもらえなくなるのではと。実のところ私などは読んだだけで見た気分になってしまいました。再読してもちょっと泣けてくるレビューです。他の組のレビューも、アイスダンスに精通したこの記者らしく読み応えのあるものになっています。
☞ 【世界フィギュアスケート選手権2016】アイスダンス総括 on J SPORTS(担当: 海鳩オッコ)
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