thanks to: NORAYA ノラヤ (NAHO YAMAMOTO) for her whimsically in-style frame
posted on June 23, 2016
フィギュアスケートの15-16シーズンも暮れてきました。
Pigeon Post では、シーズンのまとめとして、スタッフに「10項目ぐらいのリストを作ってほしい ※でも項目の数は自由」「リストのテーマも自由」「文字数も自由」という奔放なオーダーをかけ、今季をいろいろな視点で振り返りました。
この THE 15-16 season LONGLIST は、「出来上がりまで、他の人のリストは見られない」闇鍋状態で作っております。揃わない足並みや被り放題の項目もまた一興として、全6リストにお付き合い下さい。
愉しさ、新しさ、カッコよさ、美しさ、儚さ、強さ、熱さ、豊かさ、激しさ、優しさ⋯
フィギュアスケートが私達に映す、いろいろなものが集いました。(島津愛子)
title: 少数民のフィギュアスケート10大ニュース(+1)
リスト作成: 島津愛子(Aiko@ppsk8)
他の分野から見たツボを集めました。
1) 「演技構成点」の寿命が来ている [男子シングル]
*「技術点(配点のある技の総得点)」+「演技構成点(演技内容を量る5項目のジャッジの評価点)」の合計がフィギュアスケートの得点となる。*
以下、「演技構成点」を『現象(phenomenon)』として捉え、その行方を見守っています。※個々のジャッジングの是非に言及するものではありません※
演技構成点(Program Component Score「PCS」)=いきもののイメージで、猫でも犬でもいいのですが、なんとなく馬に喩えてお伝えします。
男子シングル代々のトップ選手のPCSの推移を見ていくと、PCSは満点に向かって前進し続けています。
羽生結弦選手(21)のPCSの鼻先が満点付近まで届いた昨年12月のISUグランプリファイナル。
私は、トップ選手のPCS達に寿命が迫っているのを感じていました。
おそらく、羽生選手と同じ評価ランクの昨季世界王者ハビエル・フェルナンデス選手(25、スペイン)と今季競技復帰したスケーティングの覇者パトリック・チャン選手(25、カナダ)のPCSもいずれ満点付近で横一線に並ぶでしょう。
その暁には彼らPCS最上位ランクの選手達にとっての試合はもはや、技術点(TES)のみの勝負になるからです。
満点を目指し疾駆するPCS達が、満点を迎えた瞬間、役目を終える。
なんという諸行無常でしょうか。
予想通り、1月の欧州選手権と2月の四大陸選手権で、フェルナンデスPCSとチャンPCSは羽生PCSを猛追します。
PCSはジャンプが決まらないと上がってくれません。
羽生PCSのスパートにこれ以上引き離されてはいけない、という厳しい状況でジャンプを決めた両選手に、今季最強のスポーツマンシップを見ました!
そして、満点付近でせめぎ合う首位羽生PCS・2位チャンPCS・3位フェルナンデスPCSが一堂に会した世界選手権。
私は、男子シングルにPCSの再インストールをかけたい衝動にかられながら、固唾を飲んで、この試合で臨終(満点)に向かってさらに前進するであろう3選手のPCS達を見守っていました。
3選手共に力を出し合った場合PCSは満点で頭打ちとなり、試合は技術点の差で、四回転ジャンプをチャン選手より多く構成し・技の加点がフェルナンデス選手より多い羽生選手の勝利です。
ここで、フェルナンデス選手が両選手よりジャンプを決めた結果、フェルナンデスPCS(フリー)が羽生PCS(「98.56 」@グランプリファイナル)に並びました(「98.36」)。
試合前には羽生PCS・チャンPCSに3〜4点ほど離されていたフェルナンデスPCSが一気に差し込み、これで3選手のPCSはほぼ絶命しました。
3位チャンPCS〜先頭羽生PCSの鼻の差は(フリーで)「1.42」。次でチャン選手がジャンプを決め好演技をすれば、チャンPCSも匹敵するでしょう。
現状でも、「(満点まで、あるいはチャンPCSと他2名のPCSの差)約1.5」点というのは例えば、たったひとつのジャンプのちょっとした着氷の乱れ、その減点と同等です。
PCS=『作品性』では差がつかない。
スポーツ×アートであるはずのフィギュアスケート。
その本質を揺るがす憂き目が、男子シングル先頭集団に訪れています。
((PCS関連記事))
澤田亜紀先生(関西大学アイススケート部コーチ)に宇野昌磨選手のPCSのひとつ【SS(スケーティング技術)】の解説をして頂きました。
☞【世界フィギュアスケート選手権2016】男子シングル日本代表選手見どころ ~五輪への折り返し地点「ボストンワールド」でのピョンチャンに向けての確認事項~ on J SPORTS
2) アーティストリーの鬼っ子がジャンプの鬼に [男子シングル]
ネイサン・チェン選手(17、アメリカ|全米選手権3位)のことは、ソチ五輪シーズンに「アーティストリー(芸術性)の鬼っ子」と紹介していました。with ルパン近藤
☞ ルパン近藤が語る!次代を担う若手フィギュアスケーター【男子編】on J SPORTS
ジャンプのツワモノではなかったチェン選手が、同じ記事で「ジャンプの鬼っ子」と紹介していたボーヤン・ジン選手(18、中国)と共に、現在の最高難度である「四回転計6本(ショート2、フリー4)」のジャンプ構成をわずか2シーズンの内にものにする日が来ようとは⋯映画『アバウト・シュミット』のラストシーンのジャック・ニコルソンみたいにじわっとします。
ニコルソン扮する世の中に疲れた老人の元に、チャリティー団体を通じ支援しているアフリカの子供から手紙が届きましたね。成長を知らせる手紙には、老人と子供の幸福な姿がクレヨンで描かれています。
まごころに触れてじわっとする、という名シーン。
風貌も日に日に逞しくなるチェン選手を見る度、私もじわっとします。⋯老人とは違い、私はチェン選手のお役に一切立てておらず、恐縮です。
体が大きくなり、小さいボディのコントロールに自由が利いていた頃よりも踊りが難しくなってくる、その陸のキッズダンサー同様の壁をどう乗り越えるのか。(母国開催となる世界選手権初出場を逃してしまった)左股関節の怪我からの復活も祈りながら、これからもじわっと見守っていければと願っています。
3) 『カラマーゾフの兄弟(ロシア人作家ドストエフスキーの小説)』で言うと三男アレクセイみたいな「人類の良心」キャラクター、現る。[女子シングル]
エフゲーニャ・メドヴェージェワ(on Pigeon Post)|エフゲニア・メドヴェーデワ(on J SPORTSさん)|エフゲニア・メドベデワ(on テレビ朝日さん)|エフゲニア・メドベージェワ(on フジテレビさん・TBSさん)⋯日本語表記の揺れが校正の困りどころの Evgenia MEDVEDEVA 選手(16、ロシア|世界選手権優勝)が、セーラームーンの歌詞の暗唱でもお茶の間を沸かせた世界選手権。内面のとてつもない仕上がりも、是非インタビューで御覧下さい。
☞ 「ファンの皆様へ: 人生の目標を持ち、温かさと優しさを見せ、互いを愛し合い、フィギュアスケートを愛し続けて下さい。※16歳」 昨年11月のインタビュー on J SPORTS(担当: たかふみ)
4) 真性コンテンポラリーダンサー、現る。[女子シングル]
ジャーダ・ルッソ選手(19、イタリア|イタリア選手権2連覇)の演技を初めて見た時、#きこえますか「し⋯⋯⋯⋯⋯ししし⋯⋯真性⋯⋯こ⋯contemporary⋯ダンサー⋯⋯見つけ⋯⋯ま⋯⋯したッ」と陸のダンスファンの心に直接呼びかけました。#きこえません
コンテンポラリーダンスは、モーションというより肉体の造形ひとつで見る者に強い心象を残さなければならないダンスで、振付ひと振りひと振りへの心血の注ぎ方が他カテゴリーのダンスとは異なり、とにかくアツイです。
そのコンテンポラリーダンサーならではのダンスの温度で、氷を溶かしてしまいそうなルッソ選手。フリー『Red Violin』はともすれば「ジャンプに苦労が見られるフィギュアスケートの演技」ですが、「瞬きも出来ない4分のソロダンス on the ice」として光り輝く作品です。☞ 欧州選手権フリー 検索キー: Giada RUSSO 2016 European FS
高得点のジャンプがまだ構成に入れられない中、欧州選手権では決まるジャンプも決まらず、得点を伸ばせず総合14位。⋯という結果はさておきルッソ選手オシとなっていた ☞ 欧州選手権のレビュー on J SPORTS(担当: 山内純子)は、フィギュアスケートを熱心に応援されているファンの方々にもとてもよろこばれていました!
5) 女性アスリートによる震撼の Popping [ペア]
Poppingポッピング(ポップとも言われる)とは、ヒップホップダンスのジャンルのひとつで(話せば長いので見た目をまとめると)「人間らしくない」動きで魅せるダンスです。Popping で肝となるのが「ストッピング(dime stop、ヒット hit とも言われる)」という技術です。女性は男性より筋力がないので、筋肉に瞬時に力を込め動きの中で(慣性に逆らい)ピタッと静止する、このストッピングが至難の技となります。
そんな女泣かせのこの野郎ストッピングが⋯足下を滑らせながらフィギュアスケートの技をこなしながらの、この仕上がり。☞ アスタホワ/ロゴノフ組(19/27、ロシア|ロシア選手権4位)のクリスティーナ・アスタホワ選手のフリー『Shatter Me (by Lindsey Stirling)』『The Storm (by HAVASI)』の演技です。(検索キー: Astakhova/Rogonov 2016 European FS)
"留めたまま流れる"フィギュアスケートならではの踊りも、人形使い&人形の物語も、HAVASIの『The Storm』も⋯ダンスファンの琴線に触れまくりです!
6) 市橋翔哉選手(18)との出会い [ペア]
「ペア競技を志す上で一番大切なのは『信頼関係』。『どこまで信頼してもらえるか』、そこを僕は頑張っています!」とは市橋選手(三浦璃来/市橋翔哉組|全日本ジュニアチャンピオン)のインタビューの締めくくりの言葉です。
男子シングルとかけもちでペア競技を始めたばかりの頃の取材で、この悟り。
インタビュー前半では、ペア競技を始める前の市橋選手の歩みを描いています。前半最後の、市橋選手をペア競技に送り出すシングルの先生方からのエールには、涙が出ます。インタビュー後半では、市橋選手によるペア競技の紹介をお願いしました。ペア元年ながらペア競技への深い見識を分かりやすく伝えられました。⋯※当時高校3年生。
☞ 昨年9月のインタビュー on J SPORTS(担当: Pigeon Post 記者チーム、島津愛子、海鳩オッコ)
市橋選手の行く手にあるのは、日本ペアの未来。日本ペア創生の道のりをこれからも応援していきます。
読み物としては、忘れていた大切な何かを思い出せるような、夏の文庫フェアにオシたい読み物になっています。
7) 陸では不可能な造形美を生む振付 × インディー系の音楽 = 「アーティスティック兄さん姉さんに見せてあげたい」No.1プログラム [アイスダンス]
フィギュアスケートは(アイスダンスのショートを除き)プログラムの音楽ジャンル/ダンススタイルが自由なので、演目はどのダンスよりも自由です。
しかし、下半身を"滑り(スケーティング)"に取られてしまう上、「エレメンツ(=配点のある技)」を決めなければ勝てないこともあり、振付は自由ではありません(その替わり、陸では絶対に出来ない、"滑り"が可能にするムーブがあります)。
アイスダンスはさらに、大部分で指定された男女の「ホールド(組む体勢)」を入れなければなりません。曲が変わりお芝居が変わると一見違う踊りには見えますが、各組で、振付のムーブのバリエーションがあまりない状態です。
そんな中、今季のアイスダンスのパパダキス/シゼロン組(21/21、フランス|世界選手権2連覇)のフリー『Rain, In Your Black Eyes (by Ezio Bosso)』『To Build a Home (by The Cinematic Orchestra)』は、まったく違うフィギュアスケートに見えました。
振付に自由度のあるエレメンツの繋ぎはもちろんのこと、エレメンツ自体が『フィギュアスケートにしか成し得ない造形美』として見せられていきます。
男女を一心同体に造形として捉え、しかも彫像的な瞬間を『見せ続けられる』。
そのトップアスリートならではの強靭な心技体も、是非陸のダンスファンに見てほしいです。
8) GIVENCHY みたいなトップスがフィギュアスケートの衣装に [アイスダンス]
GIVENCHY の花柄等のプリントのシリーズは、①自分自身のクオリティーを上げたい ②でも「ストリート感」(≒反骨精神)は持ち続けたい という兄さんの相反する二大願望を奇跡的に叶えるアイテム。☞ 一番人気の#BabyBreath柄で二大願望を訴求し尽くした完璧なPR
美と毒が絶妙に引き立て合い、買えなさそうで「⋯でもいっこぐらいなら?」買えちゃいそうな価格設定も巧妙。着やすい商品構成でも需要を満たし世界中で繁盛していますが、この度、氷上にも登場。
⋯したかと思いきやな衣装が、イリニフ/ジガンシン組(22/23、ロシア|ロシア選手権4位)の ☞ ルスラン・ジガンシン選手のフリーのトップス(on ice-dance.com / Photo by Julia Komarova)です。メキシコの女性画家フリーダ・カーロをテーマにした演目で、☞ 1947年の作品『Sun and Life』(on abcgallery.com)がバックプリントで使用されています。
目に見えて上質なファブリックとプリント。しかも、絵をそのまま写しているわけではなく、部分的に拡大縮小しカラー調整も施しています。黒の背景で構図が一から創り上げられ、GIVENCHY みたいなバックプリントのロンTが氷上で舞い踊りました。
⋯と、服飾ファン美術ファンの皆さんの御興味も頂いたところで、イリニフ/ジガンシン組による、今季のベスト・オブ・おもしろインタビューも御笑覧下さい。9.9(女性イリニフ選手): 0.1(男性ジガンシン選手)の女性天下です。衣装はイリニフ選手のディレクションです!
☞ 昨年11月のインタビュー on J SPORTS(担当: たかふみ、海鳩オッコ、島津愛子[翻訳])
9) シルク・ドゥ・ソレイユ化が止まらない [シンクロ]
男女シングルとカップル競技の世界選手権の1週間後には、16人で演技するシンクロの世界選手権が開催されます。
フィギュアスケートの他の種目に比べ歴史は浅いですが、2000年の初開催から16年を経た今、このシンクロワールドは、スポーツ&エンタメファンには見逃せないイベントになっています。シルク・ドゥ・ソレイユマニアとしては「シルク・ドゥ・ソレイユの各演目に点数がつき、勝負の涙もある。それがシンクロスケート」と声を果てしなく大にしてお伝えします。
☞ シンクロワールド2016事前投稿Twitter@ppsk8まとめ
10) 日本シンクロスケートの煌めき [シンクロ]
⋯を、お伝えしようとシンクロワールド終了後すぐさま動画を投稿したのですが、感じ入り過ぎて画面中央にカーソル「↑」が入ったままになっていました(泣) 不行き届きで申し訳ございません。
Twitter@ppsk8
Aiko:[シンクロスケート・神宮IM #涙しか出ない]過酷な練習環境の中この至芸が生まれました。是非御覧下さい。☞ シンクロワールド2016FS『美女と野獣』 #athletes #dance #determination #pride #ISU公式動画から手作り
+1) ダーウィンに見せてあげたい いのちの神秘 [男子シングル]
「LONGLIST」は今季最終戦のチームチャレンジカップの前に企画されていました。上記10個をリストアップした後、チームチャレンジカップを終え急遽追加となった本項は、宇野昌磨選手(18)の進化についてです。
才能が芽吹き木を繁らせ花を咲かせて実を結ぶ、そんなアスリートの一生に、宇野選手の変容は当てはまりません。パフォーマーとして素晴らしい選手がジャンプに苦労する、それは一番のフィギュアスケートあるあると言えるでしょう。けれども結果は出なくとも、フィギュアスケートファンには、そんなパフォーマーを「素敵なスケーター」と称賛し応援する気風があります。
宇野選手も2シーズン前までは、ジュニアながらその素敵なスケーターでした。こちらを宇野選手の第一形態とします。 その後、自身も「このまま3アクセルが飛べない男子スケーターで終わるのか」と考えもした時期を乗り越え、昨季、3アクセルと4トゥループが一挙に炸裂します。3アクセルに苦労していた選手が、ある時から3アクセルも4トゥループも飛びこなす。理想に近づいていくというより突如姿を変え、パフォーマー兼ジャンパーという第二形態となった宇野選手。「これ以上の激変はない」「これから他の選手同様に醸成段階に入り、ことこと煮込まれていくのだろう」と思っていた今季の終演、チームチャレンジカップで宇野選手は第三形態となりました。
宇野選手が4トゥループ(基礎点10.3点)の次に着手している四回転では、4サルコウ(基礎点10.5点)よりも4ループ(基礎点12点)のほうが「感触は良さそう」。その夏のインタビューの時点から何らアップデートなく、【世界選手権後から練習し実質約2週間で4フリップ(基礎点12.3点)が試合で決まる】未曾有の事態に。※いろいろな点で史上初の偉業。
ピョンチャン五輪ではマストになるであろう四回転計5本の構成を、五輪まで2シーズン残して完成させました(1つ着氷の乱れがあったものの回転数は満たす)。
フリー最終盤に「17.13」点を稼いだ3アクセル+1ループ+(他の選手は3サルコウのところ)3フリップという独自の(スポーツファンにとって)シブいコンビネーションジャンプも、2アクセル→3アクセルへと格上げされ、宇野選手がパフォーマー兼トップジャンパーの第三形態に進化したことをシブく示しています。
もしやここからの『宇野昌磨第四形態』があるのかと思うと気が遠くなりますが、皆さんも心の準備をされまして、どうぞよい来季をお迎え下さいませ。
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☞ P5 私にとっての15-16シーズンベスト1プログラム|「心に刺さったPigeonPostフィギュアスケート記事」のレビュー