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by AIKO SHIMAZU 島津愛子
December 13, 2013 in Fukuoka
FS"Lord of the Rings" @ 2004 All-Japan
PP: アスリートというのは、スポーツを伝える側よりも世代的に若くて、フィギュアのシングルは特に若いので、「子供が成長していく」みたいな捉えられ方で報道されることも多くて、自分はそれに違和感があって。スポーツは、その試合だけじゃなくて、「365日かけて超越した心技体を作る、その営みが出来るのか、どうなんだい!」っていうことだと思ってるので、それを頑張れているスーパーアスリートの皆さんは、そんじょそこらの大人よりも克己心がある!っていう主張をしているんですけど、
KN: ⋯(笑)
PP: その「365日の営み」を、中庭健介選手は、フィギュアスケートでは多分「最長記録」位長くやられていて、
KN: 国内ではそうでしょうね。
PP: だから、中庭健介選手は「なんという精神性の持ち主なんだ!」と!
KN: (笑) それこそ、さっきも言ったように、良い意味で「抜く」ことが出来ていた、と。
PP: 「抜く」!
KN: パツンパツンになってこう(ゾーンに入り込む様子の中庭先生)なるのももちろん大切ですけどね、当然。でも、人間、それでは長くもたない、絶対に。
プラスの捉え方すると、僕はそういう「スイッチの切り替え」がうまかった。逆に「オフ」にし過ぎて、切り替えられなかったこともありますけどね。
KN: 価値観や意見の違いもあるとは思うんですけど、僕は今の子供達にある程度「長く続けてもらいたい」んですよね。⋯ノービス/ジュニアで力尽きる子がほとんどなので。
PP: スポーツを通して道徳が見えるところまで、頑張ってほしいですね。
KN: 今、「シニア女子」という選手はほとんどいなくて、(上位選手は)皆「ジュニア女子」です。今のジュニアの子達も、数年後には(シニア選手として活躍できず)また次のジュニアの子達と入れ替わってしまう。ジュニア女子から、ほんの1人2人しかシニア女子のトップには残れない、という構図です。今はもうその歯車も崩れていて、2〜3年に1人しか残らないです。
PP: ほんとに、どうしてなんでしょう⋯
KN: 周囲のプレッシャーで⋯ 今は親御さんも真剣に取り組まれているので。
僕が続けられた原因にもなっていますが、僕の親はスケートに関しては「ほぼノータッチ」でした。なんっにも言わなかったです。「練習行きなさいよ」とか「先生の言うこと聞きなさい」位は言いますけど、「あの時、なんで失敗したの?」とか試合や練習の内容については言わなかったです。
PP: 「先生」になっちゃう親御さんもいらっしゃるんですね⋯
KN: まだ子供がちっちゃい間は、親が強いじゃないですか、だから言うことも聞くと思うんですけど、大体中学三年から高校二年位の間で、反抗心が一度爆発する。親と子が衝突して どちらかがドロップアウトしたら、スケートは続けられなくなります。
ノービス/ジュニアで活躍した子達がシニアに残れない原因は、ほとんどそこにあると思います。プレッシャーで、子供達の心が壊れてしまう。
コーチの立場としても、そういうのは極力避けてほしいですし、僕が長く続けられた原因もそこだと思っているので。
KN: 長い目で見ると、選手が日の目を見るのは「シニア」じゃないですか、やっぱり。真央ちゃん(浅田選手)みたいに、才能がぶっ飛んでたらいいですよ、でも、今は 小さい頃から選手がプレッシャーにさらされ過ぎている。
「プレッシャーをかけていかないと強くならない」というもの分かるんですけど、その「さじ加減」ですね。
⋯そこはこっちサイド(コーチ)でやってるんで(笑)、家庭ではあたたかく迎えてほしいです。
KN: 鈴木明子は、一回地獄を見た選手ですから。そこから這い上がって来た選手は、僕は明子しか知らないです。あそこまで落ち込んで、あそこまで上り詰めた選手は、僕は明子しか見たことがないです。
KN: (長久保コーチから共に指導を受けた)明子とは一番仲が良いんですけど、明子がいなかったら、僕はスケートを早くやめていました。
PP: !!
KN: トリノオリンピックの前のシーズンの全日本(2004年)で2位だったのに、五輪シーズンに(代表選考に関わる)グランプリシリーズの派遣がなかったんですよ。
PP: !?
KN: まいりましたね。(代表選出は厳しくなり)そこから3ヶ月位、練習もほとんどしてなかった感じです。
PP: ⋯あわわわわ⋯
KN: でも、他の海外試合(ISU B大会)に派遣されていて、「ゴールデンスピン(クロアチア)」に、復活してすぐ位の鈴木明子と、どうでもいい精神状態の僕が一緒に出場したんです。当然僕は全然だめでしたけど(7位)、長久保先生に声をかけて頂いて。「じゃあそのまま仙台に来い!」って(笑)
PP: 急転直下!
KN: 福岡便をキャンセルしてすぐ仙台に行って。だから、明子と一緒にそこに行ってなかったら、僕はその年(2005-06シーズン・大学四年)で終わってたかもしれない。結局、トリノの代表選考会の全日本では(高橋・織田選手に次いで)3位になって、ひとつ頑張り切れた、というか。ゴールデンスピンからたった1ヶ月半で甦った、というか。それが"ロード・オブ・ザ・リング"の年ですね。
PP: わー、全部繋がった!
KN: (笑) だから、そこから「またバンクーバーまで頑張ろう」と思いました。
2005 All-Japan L NAKANIWA - TAKAHASHI - ODA R
KN: 僕、本郷理華もよく知ってるんですけど⋯名古屋では本郷理華の家にいたので、
PP: へぇー!
KN: 理華が小学校六年生位から知ってます。妹みたいな存在で。ずっとよく遊んでて⋯僕と同じパターンですよ、練習ではこんな(「しんどいわー」の演技をされる中庭先生)なのに、練習が終わったらニヤニヤして(笑)
PP: (笑) 笑顔を絶やさない。
KN: ところが、人間 変わるもんですね!(笑) 努力はしてて、でも「この子はうまく行くのかな⋯」って思ってたんですけど、とんでもない!今や全日本ジュニアチャンピオンですよ。
KN: 人間、こういうタイミング(再び折れ線グラフでアップダウンを表される中庭先生)があると思うんですけど、ノービスでこう(急上昇)来ると、ジュニアでこう(急降下)なんですよ。女の子は思春期を迎えるとどうしても体重が増えたり、それに乗じて怪我も増えますし、心も体もこう(下降気味)なのに、それを上がっては来れないです。そこから、シニアでこう(再浮上)はならない。
そこを「クァーーーーッ」と(「鯉の滝登り」を演じる中庭先生の左手)上がって来たのが鈴木明子です。明子をリスペクトするのは、そういう精神的な強さで。
理華はその逆で、ノービスまではこうなんですよ(グラフが上がらず)、ジュニアでこう(急上昇)来てるんで、シニアで一度や二度はこう(一旦下降)なると思うんですけど、僕の感覚では、その下げ幅が浅くて済む。
PP: ⋯鈴木春奈選手も、戦いが難しくなっているのかな、と、
KN: あー、すごい上手ですよー、
PP: そう、スケーティングと踊りも上手で「すごい選手が出た」と思っていて⋯ (おしゃべりも楽しくて)
KN: 今回の全日本ジュニアでも見ましたけど、抜群でしたよ!スケートも踊りも美しさも。ただ、「ジャンプ」飛べないと⋯点数が出ない。
PP: ⋯
KN: だけどあの才能は、非常に価値のあるものだと思います!
PP: ですよね!
KN: いないですよ、あんなにうまい子は⋯ 本人の努力と頑張り次第でいくらでも覆せると思いますけど。
PP: 「クァーーーーッ」と来てほしいですね。
KN: 佳菜子(村上選手)も今シーズンはここまで調整に苦しんでるみたいですし。ジャンプのキレも以前よりないですし、ちょうどさしかかってる頃ですね。
彼女のソチオリンピックの代表争いがどうなるかは置いておいて、もしここで「頑張り切れない」ということになると、シニアでの今後の戦いも難しくなっていくでしょうね。むしろ、「佳菜子にはここで頑張ってもらわないと!」ソチの後、日本女子を引っ張ってもらわないと!
PP: プレッシャーになるかもしれませんけれども、「佳菜子さん、お願いします!」
PP: ノービス/ジュニアで活躍した女子選手がシニアで活躍することは難しい、ということですけれども、やはり女子はウェイトコントロールが難しいんです⋯
KN: 難しいですよ⋯しかも、比べられる相手は中学生軍団でしょ。同じ土俵で戦うので仕方ないですけど。そのジュニアの子達も2〜3年後には、その次の中学生軍団を相手に、同じ目に遭う。心も体も壊れやすいですよね。女の子は、精神的なものと身体的なものが一気に重なる時期が来てしまう。
「そこをどうケアするのか」が僕の今の一番の課題ですね。僕の生徒達は小・中・高の選手なので。その選手の目指している場所によって、それぞれに合ったケアを、と。ウェイトコントロールも、専門のトレーナーの方にお任せしています。(指導者として)今、いい勉強させてもらっていますね。
PP: 中庭健介選手の「怪我をしない」体作りもお伺いしたいです。
KN: 「怪我をしない」と言うよりは、「怪我がひどくならなかった」という感じですが、幼い頃からアップとダウンをしっかりしてました!これは胸を張って言えます。
地方では なかなか氷上での練習時間の確保が難しくて、今でこそ恵まれていますけど、リンクの貸し切りもそう取れず、一回一回の練習に集中しないといけないので、先生がその前後のアップとダウンを徹底してやらせてましたね。それでアップとダウンが習慣になって、「アップしないと気持ちが悪い」みたいな(笑)
そういうのは、目に見えて分からない、というか⋯「アップしなくても飛べるし」「ダウンなんかしなくても回復するし」って若干思ってましたけど、今思えば、そのおかげで1ヶ月の怪我が1週間で済んだのかもしれないです。
先生方に感謝していますし、僕の生徒達にも徹底させています。
KN: 体作りをするターニングポイントになったのは高校一年位で、世界に出て 練習量も増えて、足腰が痛くなってきた時に「これでは体力的に足りない」と、トレーナーの方にお願いして、今までやってなかった陸上トレーニングをし始めたんです。
大学に入って「四回転」の練習に突入した時にもう一度、慢性的な痛みを抱えることになったのですが、大事に至らなかったのは、ケアをして下さる先生方のおかげで。スポンサーがつく前は、現役時代ずっとお世話になった整体/鍼灸の先生に、体もトレーニングも見て頂いていて、スポンサーがついてからは、「トータルワークアウト(ケビン山崎氏代表)」に通って⋯と、うまいタイミングで、自分の求めていたものと出会いやすい環境、ではありましたね。
KN: 怪我をする選手しない選手というのは運もあるんですけど、一番はやはり「日々の努力」。トレーニングやストレッチだったり、「ケアすること」。
選手にとって精神的に一番ツライのは、練習が出来ないこと=滑れないことなので、生徒達にもそういう思いをさせたくはないです。
KN: 今、成功しているほとんどの選手達の練習拠点は日本です。拠点を北米に移すのは、僕は、「時期とレベルに応じて」やるべきじゃないのかなぁ、と思います。高橋君織田君小塚君もそうですけど、キャンプ(合宿)で北米に行くような形で。勝手な感じなんですけど、「心身が落ち着くのは日本じゃないかなぁ」と。やはりそれは、関西大学さんであったり中京大学さんのサポートなくしては語れないですね。
以前はそういう環境が日本になかったので。真央ちゃんも、日本を離れて海外を拠点にせざるを得なかった。今では、大学の皆さんのお力添えもあって、選手達の一層のレベルアップに繋がっていますね。
PP: 全日本選手権に向けて、【ジュニア勢の見どころ】としまして「この選手のここに注目」という中庭先生の解説をお願いします。
KN: 僕は、まず第一には「田中刑事」です。よく比較されるんですけど、羽生・田中・日野(龍樹)は同い年なんですよ。常にこの三角関係がこうなったりこうなったり(両手で形成したトライアングルがコロコロ)しながら競っていました。
田中刑事は「ミスター・シルバーコレクター」と言われる位、1位も3位もなくて常に2位という存在だったんですけど、今年の全日本ジュニアで7年越しの念願叶って優勝して。
ここでタイトルを取ったことで、間違いなく日本男子を引っ張っていってくれるし、「若い勢い」と、「同じ世代の結弦(羽生選手)には負けてられない」という気持ちも絶対あると思います。
男らしくて非常に力強さもあって、今年はすごくスケートも滑らかになって、まだジュニアっぽいですけれども表現力も出て来ていますし、来シーズン以降シニアに上がって、日本を代表する選手になってくれると思います。
四回転ジャンプも今はちょっと不調気味ですけど、実際、今年初めて成功させたという試合もありましたので、そういった意味でもようやく「シニア」になってくれるんではないかな、と。
KN: 女子は「本郷理華」です。姿勢について いろいろ言われるんですけど、やはりあの日本人離れした体格、
PP: フィジカルがすごい!
KN: そう、世界で戦う時に、そこで目立たないと。低いから目立たない、というわけでもないですが。高い人は高いなりの大変さもあります。長くなれば美しさをキープするのにも力を使いますので。
技術的に高いものも持ってますし、表現力も非常についてきてますし、スケートを生で観ると、「迫力」があります。
今回の全日本も好成績を残して、来シーズンからシニア参戦もあると思いますし、そうなってほしいです。シニアの舞台で、次の平昌オリンピックまで4年間磨いてほしいですね。
彼女を見てると、「継続は力なり」という言葉が思い出されます。ひとつひとつ積み上げていくことで成長できるんだな、と。シニアになってもそういう姿で続けて行って、日本女子を牽引するような選手になってくれるんじゃないかな、って。
KN: この全日本ジュニアの両チャンピオンには、今後のフィギュアスケート界を担っていけるような活躍を期待したいですし、僕らは彼らを脅かすような選手を育てたいな、と思ってます。
KN: 今年の全日本も、生徒は出てないんですけど観に行きます。この素晴らしい全日本を客観的に見られるので、「人生模様」がおもしろいなぁ、と。「最後の全日本」という選手が多過ぎて、ハンカチなくしては見られませんよ!
PP: お別れに、ファンの方へのメッセージをお願いします!
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► Kensuke NAKANIWA 中庭健介コーチ @ Papio Ice Arena パピオアイスアリーナ on Dec 13, 2013