
Pigeon Post - MIWA EGUCHI 江口美和: projection, interview, text|AIKO SHIMAZU 島津愛子: edit, design
thanks to: NORAYA ノラヤ (NAHO YAMAMOTO) for our "beloved" green pigeon
on December 26, 2016 in Osaka
関西大学で指導されている澤田亜紀さんに、今年もフィギュアスケート便りを頂きました。後編では、昨年暮れの全日本や引退生についてのお話をお届けします。
☞ 前編:ルールのアップデート|今季の流れ|女子のジャンプ|インカレの見どころ|国内試合観戦のたのしみ
AS: 澤田亜紀コーチ
PP: インタビュー/テキスト Pigeon Post 江口美和
► 全日本
AS: 今回長光チーム(澤田亜紀先生所属)から4人、男子は三宅星南くんと吉野晃平くん、女子は上野沙耶ちゃんと森下実咲ちゃんが出場し、演技を観られた選手は少ないんですけど。男子はゆづがいなくて(羽生結弦選手はインフルエンザで大会前日に棄権)全員にチャンスがあって、全員が狙いにいってる状態で、(宇野)昌磨くんが優勝したけれどパーフェクトな演技ではなく、本人も悔しそうで。無良くんもショートが1位なだけに「やったるぞー!」って気持ちがあって、それが出過ぎて失敗しちゃったのかなと。(田中)刑事くんも細かいミスはあったんですけど、気負わずよく出来たなぁと思って。それぞれの思いのぶつかり合いが見られました。
PP: 田中選手は「今回は順位を気にせず、自分の出来ることをやるつもりで来た」と大会中何度も言われていました。
AS: そうやってマインドコントロールしたのかもしれないです。世界選手権を意識し過ぎると空回りすることもあるかもしれないので、あえて目線をきっちり向け直したのかなあと。
PP: 無良選手はやっぱり気持ちが難しかったかもしれませんね。
AS: ショートで1位に立ってるだけに、気持ちのコントロールって難しいんじゃないかなぁと思って。ずっとゆづを追いかける立場だったのに、いざ自分が上に立つと下から追いかけられてくるので。
PP: 無良選手は、「11回全日本に出てるけど、一番悔しい表彰台の乗り方」だと。
AS: 全員がノーミスの結果なら気持ちも変わるかもしれないですが、ミスが多かった人が負けてしまった⋯という感じだったので。
AS: 女子は時間の都合もあり全員は観られなかったんですけど、「世界選手権⋯!」とかぐわぁっと考えるよりは、自分の出来ることをやろうと考えた選手が良かったんじゃないかと思います。ジュニアの選手も「全日本に出られてうれしい!」という選手のほうがのびのび滑っていました。
PP: 関大で練習されている滝野莉子選手、ショートはすごくのびのびしていて。
AS: フリーはすごいグループに入ってしまって(笑)「ああ莉子ちゃん⋯頑張れ~!」と思っていたんですけど。同じグループに(浅田)真央ちゃんもいるし(村上)佳菜子ちゃんもいるし、ってなると、いつもの莉子ちゃんじゃなかったなと。普段の練習を知っているので「莉子ちゃん、もうちょっと出来るのにな~っ」と。フリーは世界ジュニアの選考もかかってきて、気持ちのコントロールが難しいんですけど、でも良い経験になったんじゃないかなと思います。
PP: フィギュアスケートって、メンタルがすごく大きく左右する競技なのかなと思います。
AS: 対戦競技だと相手がどう行くか読みながら行けるんですけど。フィギュアスケートは、本当に自分との戦い。4分も自分と戦ってますからね(笑)
PP: 大会全体を通して印象に残った選手は?
AS: 今回は佳菜子ちゃんです。彼女はお姉ちゃんが私と同い年で、「妹がスケートしてるの」と言ってた頃から知っているので、この全日本の演技が観られてよかったなと思います。ソチ五輪が終わってから、練習が結果に出なくて苦しかったと思うんですけど、よくここまで立て直してきたなと。ショートも失敗こそしたけど、そんなに落ち込む様子もなく。以前は回転不足ですごく悩んだ時期もあったと思うんですけど、ミスはミスとして、それ以外の部分でちゃんと評価されたことがよかったなと思います。
PP: 村上選手はダンスがとてもお上手なので、見ていても楽しい選手だなと思います。
AS: 特にフリーの最後、トスカが撃たれてからのところですね。4分があっという間に感じました。
PP: 体の使い方が若い選手とは違うというか。
AS: ちっちゃい頃からよく踊るなあと思ってたんですけど、それがより向上して。すごかったですね。
PP: 男子はいかがですか?
AS: 星南くん、実は練習中少し暗いんですよ。西日本選手権が終わってから移ってきたので、まだ全部を知っているわけじゃないのですが。普段喋ってる時は普通なんですけど、試合が近づくにつれ、だんだん集中モードに入るというか。オフアイスになったら喋るんですけど、氷の上でどんどん自分で考え込んでしまうような。でも、いざ全日本の舞台で曲がかかるとめっちゃ笑顔で踊ってて、「はっ。こんなに変わるんだ!」と思って(総合9位で新人賞に選出された)。
PP: 三宅選手、練習はあまり良くなかったというか⋯咳き込んでいて体調があまり良くなさそうでした。
AS: 関大がすごく寒いんですよ。寒くて、呼吸が辛くて(苦笑) 以前、歌子先生からも、「西宮も寒くて刑事くんが辛そうな息をしている」と聞いたこともあります。体の中に入って来る空気が冷たいので、しんどくなるらしいです。いざ、なみはやとか暖かいリンクに行くと呼吸が楽になったみたいで。「体力不足じゃないことが分かりました」と歌子先生にポロッと言ったようです(笑) そういう寒い環境とかも影響してるのかなあと。
PP: 関大の寒さはどのくらいでしょうか。
AS: 夜は0℃ぐらい。5℃切ります、普通に。朝イチは暖房入れて下さるんですけど、昼の段階で暖房は切られ~段々下がっていき~夕方には5℃を切り~2℃、1℃、うん、寒いね!みたいな(笑)
PP: (笑)
AS: 動いても動いてもあったまらないんです、選手が(笑)
PP: 三宅選手の全日本の練習を全て観ましたが、調子が上がらないのかなという感じだったんです。ショート本番は練習からするとずっと良くて、こちらも驚きました。
AS: スイッチを持ってるのかな。今季、ショート規定のステップからの単独ジャンプは、ジュニアは3回転または2回転ループの指定がありますが、シニアは3回転で種類の指定はありません。ショートの公式練習で、星南くんはルッツトウ(3ルッツ+3トゥループ)に続いてステップからの3ループの構成なんですけど、3ルッツを失敗して、次のステップからの3ループにコンビネーションをくっつけていましたね。ちゃんと自分で勉強してきてる、さすがだなと思いました。
PP: 勉強熱心で、ストイックなんですかね。
AS: ただ、フリーで最後のスピンがノーカンになりました。それもまた時間が足りず、全部の姿勢で回転が足りなくて。これは課題だなと。今回、星南くんはスピンでレベルを落としていることもあるので。ジャンプは一か八かなところがあるんですけど、スピンはやれば確実に取れる。8回転回ったらレベル1個上がるし、難しい姿勢で回れば1個上がるし。スピンも強化していけたらと思います。
► 引退生
【上野沙耶選手】
AS: 沙耶ちゃん⋯。本人、今年は就活をすごく頑張ってて。良いところに決まったんですよ。からのシーズンスタートだったので、就活に3ヶ月くらいかかって、ほんとに週何回来れるかなっていう練習が続いていました。なので、本人も全日本に行けるかどうかっていう感じで迎えたシーズンだったんです。最初は「近畿で落ちるかもしれない」というところから始まり、西日本も本人は「ショートのせいで全日本に行けない」という気持ちだったんですけど。フリーはなんとかやり切ってギリギリで行けて。それで「全日本行ける!」ってなった時に、行けることはうれしいけど練習の貯金がちょっと追いつかなかったでしょうか。自信がないまま本番に行ってしまったので、残念な結果だったなあと思うんですけど、でもステップだったりとか、魅せられるところは魅せられたんじゃないかなと思ってます。
PP: 上野選手は、本当にスケートが綺麗で女性らしくて。
AS: ずっと沙耶を応援して下さっている方は「天女です!」と(笑)
PP: 本当にそうですよ!以前のフリーの『SAYURI』は、そうとしか思えない!
AS: 今大会もフリーを是非見たかったんですけど⋯
PP: 『ニュー・シネマ・パラダイス』ですよね。
AS: 本当に沙耶にピッタリで。
PP: ミックスゾーンでは涙が⋯
AS: 終わった瞬間からもう。「やってしまいました~」って泣き始めて。まだフリー落選が決まってはいなかったんですけど、今回点数が高かった⋯
PP: 通過ラインが「49.14」ですね。
AS: 3-3(3回転+3回転ジャンプ)を1個バシッと決めとかないといけない。3-3を跳んだんですけど、ちょっと回転不足で。
PP: 上野選手は性格的にはどのような方ですか?お優しそうですけれども。
AS: 沙耶は⋯優しいのは優しいんですけれども、若干ネガティブで。頑張ってポジティブにしようとはしてるんです。
PP: すごく綺麗な女性なのに。
AS: ここぞって時に「でも私⋯」みたいな感じで引いちゃうことがあるので、すごくもったいないなと思って。
PP: この後はもうスケートとは関係なく?
AS: はい、一般企業に就職します。インカレと国体で終えるつもりでいます。
【吉野晃平選手】
AS: 晃平は、12月まで3アクセル降りてたんですよ。11月末かな?降りて、ああっと思ったんですけど、ちょっと調子が落ちてしまって。初めて降りた日、私いなかったんですけど、その後も何回か降りてて。2アクセルと見間違えるぐらいの3アクセルで。是非これを全日本で見たかったんですけど、ちょっと弱い部分が出てしまったかなと。ショートも本人カッチカチで。すごく緊張していました。最初のジャンプの3ルッツ転倒からは動いてきたかなと思ったんですけど。
PP: ああ、それで「目が覚めた」と⋯
AS: ツイートしていましたね(笑) 出だしのエッジワークのところでもう、膝と足首が曲がってないよーみたいな感じで(笑) 肩カチカチで。1発目でコケてから多分「ハッ!?」となったんだと思うんですけど。その後のステップとかは晃平の持ち味なので。そこはよく出てたなあと思います。
PP: あのプログラムは吉野選手も編曲に携わっていらっしゃるんですか?
AS: はい、編曲は自分でしてますね。ショートは自分で「これやりたいです」って曲持ってきて。フリーは、彼って武史先生のファンだったんですよ。武史先生の『トスカ』を使いたいって武史先生に言って、「いいよ」って言ってもらって。
PP: 『トスカ』は武史先生の最後の全日本ですよね。
AS: フリー演技後のインタビューで「なぜトスカにしたんですか」っていう質問に「武史先生のファンで⋯」って喋ってるのを、実はずっと武史先生が後ろで聞いてた、みたいなシチュエーションがありました(笑) 「先生いつからいたんですかッ!?」みたいな(笑) 武史先生への思いを語ってるのを、武史先生本人に全部聞かれてたっていう、恥ずかしい思いを最後、彼はしてました(笑) 振付も、長光チームの荒屋真理先生が担当されてるんですけど、2人で相談しながら、「こんなの入れたいあんなの入れたい」「ここのスローパートでこういう動きをしたい」と意見を出し合っていました。2人で作ったプログラムだなと思います。
PP: 荒屋先生も含め、長光チームのコーチ陣を御紹介下さいますか。
AS: 長光チームは、長光歌子先生を筆頭に5人で選手を見ています。長光先生と本田武史先生、荒屋真理先生。テクニカルのこともやってらっしゃる山井真美子先生と、私の5人です。歌子先生と武史先生がジャンプ、私も一応ジャンプを見ています。真理先生がほぼ振付、真美子先生がスピンやステップのチェックをして、チームで助け合いながらじゃないですけど、得意分野で選手を総合的にサポートしています。真理先生は平池大人先生とかと同世代なので、大西勝敬先生の生徒さんだったりとか、いろんな関西の先生の振付の依頼が多いです。
PP: 吉野選手は、西日本で初めて『トスカ』を拝見したのですが、すごい開脚で終わってて、こういう振付なのかなと思っていたんですけど⋯
AS: あれは⋯事故ですね⋯(笑) よくディダクション(時間超過の減点-1点)つかなかったなと思って(笑) 知ってる者は爆笑でしたね。いい感じで来てるのに、最後の最後でそういうミスをするかと(笑) ジャッジさんは、多分笑いをこらえていらっしゃったんじゃないかなと思って(笑)
PP: 吉野選手はどのような方ですか?
AS: 晃平も、平静を装ってるんですけれども、実は⋯シャイで⋯なんだろう、どっちも(上野選手も吉野選手も)ネガティブかな(笑)
PP: 吉野選手もすごくイケメンなのに。
AS: そうですね⋯すごく謙虚で、シャイで。実は彼、人前に出たくないタイプなんですよ。
PP: えっ!
AS: 何でこの競技をしてるのかという感じですけれど⋯(笑)
PP: 表現したりするのがお好きなんでしょうか?
AS: 多分そうなんですが、全日本ぐらいの会場になってしまうと彼がちぃちゃくなってしまって。近畿ぐらいが本当良かったので。小さい会場のほうが彼はのびのびしてる印象がありますね。
PP: 吉野選手は、次はインカレ、国体ですか?
AS: はい、そうですね。
PP: 引退されるんでしょうか?
AS: はい。競技は終了で、今後はまだどうなるかは決めてないですけど、本人は例えばジャッジ活動だったり、何かスケートに携わっていけたらと考えているようです。
AS: 沙耶も晃平も、3年までにほぼ大学の単位取り切ったんですよ。
PP: 普通の学生さんと同じですね⋯スケートしながら、すごい。真面目なんですね。
【細田采花選手】
AS: 采花は高校生ぐらいまでは長光チームにいたので、荒屋真理先生は采花のちっちゃい頃から、はじめましてぐらいから知っていて、ずっと成長を見てはりました。最後の最後に良い演技が出来て、よかったなぁ~!と。
PP: 構成もすごく難しくて、3-3、フリー後半で5回ジャンプ。
AS: 後半に3フリップが入っています。昨年はショート落ちして悔しかったと思うんですけど、今回スッキリ終われたんじゃないかなと。
PP: すごく元気な関西の選手というイメージだったんですけど、やはり性格的にもそうですか?
AS: はい、超ポジティブです(笑)
PP: 逆なんだ、あの2人と(笑)
AS: そうなんです(笑) 調子悪くてもしゃーないやん、ぐらいの感じの。でも、朝練からきっちり時間に来るタイプで。その積み重ねが今回結果に出たんじゃないかなと。
PP: 明るい性格で、真面目なんですね。
AS: そうですね。髪の毛染めて、イマドキの女の子という見た目なんですけど、根はコツコツ頑張るタイプですね。フィギュアスケートでは見た目も影響するので、衣装に合わせて化粧変えたりとか、そういう美の研究も皆してきてると思います。
【中村智選手】
PP: 今24歳で、地元の長野国体で引退される予定だそうです。
AS: 東の少ない枠を通過して⋯すごいですね。すごく、なんだろ、"カッチカチ"のジャンプ跳ぶなぁって印象があるんです。ブレない軸を持った感じ。
PP: 男らしいですよね。
AS: 力強くて、ジャンプ跳んでても失敗する感じがしない。ジャンプは堅いイメージがあります。最近しなやかな選手が多い中で、違った雰囲気を放つなあと思っていました。全日本の選手も、もう無良くんぐらいしかいないんじゃないかなあ。
PP: ああいった男らしい系の。本田武史先生もそうだったように思います。古き良き時代のスケートの香りがするタイプでしょうか。
AS: そうそう、そうですね。
► 最後に
PP: ☞ 2013年3月のインタビュー で、「私に会いに来てくれるような、好きで練習に来てくれるような関係づくりをしていきたい」とお話しされていましたが、4年経った今、御自身はどんなコーチになっていると思われますか。
AS: 良い意味でも悪い意味でも逃げ場になっていると思います。「このままだったら武史先生に怒られるから見て下さいー」と言われたりします(笑)
PP: あの時目指されていた方向に進んでいらっしゃる、と。
AS: そうですね。ちびっこは「あきせんせー」と後ろについてきてくれます(笑) 大きい子は⋯時期的に難しいこともあるんですけど。
PP: スケートの先生ではあるけれど、若い方を指導されるということで、教育的な側面もありますかね。
AS: 学生時代にそういう勉強しておけばよかったと、今思っています(笑)
☞ 前編:ルールのアップデート|今季の流れ|女子のジャンプ|インカレの見どころ|国内試合観戦のたのしみ
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☞ 男子
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☞ 浅田真央選手:挑戦したことに悔いはない
☞ エアフィギュアスケート*澤田亜紀先生のレッスン#1ジャンプ [Aki's Summer Course on Pigeon Post #1 Jumps] 2015年7月