thanks to: TEAM SURPRISE for photos, PAJA for illustrations
by AIKO SHIMAZU 島津愛子
June 24, 2014 in Tokyo
シングル/シンクロスケーターの木内千彩子選手(スウェーデン・Team "Surprise")の最初のインタビューでは、シンクロナイズドスケーティングの魅力について「各競技の要素を16人で同調させる迫力・造形美・多彩なチームカラー」とプレゼンして下さいました。
「シンクロのチームはそれぞれに、目指していることが違う」。『チームカラー』という矜持を持って、アスリートとして演者としてシンクロに心技体を捧げる。シンクロスケーターの皆さんの日々の営みは、今、オリンピックへの道に続こうとしています。
☞ オリンピック正式種目化に向けての署名活動 Make Synchronized Figure Skating an Olympic Event #WhyNotSynchro2018
今こそシンクロを全力応援するべく、今回の木内選手のインタビューでは、ピョンチャン五輪での種目採用に向けて、シンクロの技やルール・シンクロの競技生活の紹介をお願いしました。
今すぐシンクロにアツくなれるようなお話を頂きましたので、どうか皆様もピョンチャン五輪に向けてのアップを御一緒にお願いします!
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► シンクロのカッコよさで、初見の方をサプライズしたい
► エレメンツの解説
► ポジションの解説
► シングルとの違い・シンクロ特有の見どころ
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► "サプライズ"の魅力・シンクロの魅力
► 木内千彩子選手のスウェーデン便り
► ピョンチャン五輪に向けて ビデオメッセージ
► シンクロのカッコよさで、初見の方をサプライズしたい
PP: まず、シンクロを御存知ない方にシンクロの魅力を速攻でお伝えしようと、「シンクロのベストプログラムを1つ選んで下さい」とお願いしたのですが、何になりましたでしょう?
CK: いろいろ考えて⋯結局やっぱり、サプライズ(Team Surprise・スウェーデン代表)の2010-11シーズンのフリーです。私が2011年の世界選手権(日本代表・神宮アイスメッセンジャーズグレースのメンバーとして、シンクロ挑戦1季目で出場)で初めて生で観たサプライズのプログラムで、それが印象的で「このチームいいな」と思い始めました。
テーマは"サーカス"です。そのシーズンに初めてリフト(「グループリフト」)で上に乗っている選手が(支えている下の選手から)両手を離してやったんです。
PP: それまでのリフトは離してなかったんですね?
CK: 離してなかったんです。サプライズが初めてやったので、それが結構話題になったんですよ。
PP: そのような先駆的なサプライズの最新作として是非、昨シーズン(2013-14)のサプライズのフリー"スーパーヒーロー"も御覧頂きたいです!凄まじいスピードの隊形変化、女性が女性をスイング、リフトで後転する(木内選手が舞っています)等、シンクロの技巧やシンクロ姉さんのカッコよさが一目瞭然です。
☞ Team Surprise 2010-11FS "Circus" [Spring Cup Official]
☞ "This is Team Surprise" [Official]
► エレメンツの解説
PP: シンクロの技には、シングルのジャンプやスピン、ステップ(シンクロでは「ノーホールドエレメント No Hold Element = NHE」)やフリースケーティングムーブ( free skating move = fm スパイラルやイーグルやイナバウアー等)をチームとして揃ってやるエレメンツ、ペアの技もありますし、シンクロならではのエレメンツもあります。シンクロ特有の技で、近年規定に入っている「ブロック Block(B)」「ライン Line(L)」「インターセクション Intersection(I)」「ウィール Wheel(Wh)」「サークル Circle(C)」「グループリフト Group Lift(GL)」の紹介をお願いします(シンクロはフリーも技術構成に規定がある)。
CK: ブロックは3列以上で滑る、
CK: ラインは1列または2列で滑る、
CK: インターセクションは滑りながら通り抜け、
CK: ウィールは風車のように回る、
CK: サークルは、皆で円を描きながら移動するというのが基本です。
CK: グループリフトは3人で1人を上げて、4体上げないといけません。
CK: それらを基本として、レベルを取るために、ラインでは2列が90°を保つとか回転しないといけないとか、ブロックでは片足で難しいターンをしながら滑る、等の要件が加わっていきます。
PP: ブロックやラインやウィールで列を作るために組んでいる時は、力の入れ加減はどのようになっているのでしょう?
CK: ピボッティング(列が時計の針のように回る)する時は、遠心力に耐えないといけないのでしっかり掴んでいます。皆が同じ方向に滑っている時は、がっしり掴んでしまうとその人の体重が伝わるので、前の人がすごく重くなっちゃうんです。だから、ほとんど触れるか触れないかぐらいで滑っています。組んでいるけど一人一人で滑っている感じですね。列の体勢に応じて組む時の力の入れ方も変えてやっています。
PP: 組む時に「力の入れ方を変えている」のは見ていて伝わるんですけど、その加減もタイミングも合わせなきゃいけないから、もう見ているだけでも難しいです!
CK: そうですね(笑)
PP: しがみつかれると「重い」っていうのがよく分かります(笑)
PP: シンクロの隊形には「ミラーイメージパターン」というのもあって、それも造形的におもしろいです。
CK: 列が分かれて、鏡合わせのように動きます。トランジションにもよくありますね。
CK: シーズンによって規定のエレメンツも変わります。例えば12-13シーズンでは「サークルでステップ」「サークルで移動」という2種類のエレメンツだったのですが、13-14シーズンでは「サークルで移動」だけになりました。
PP: 毎年変わってしまうんですね!?
CK: (笑) 1年間練習したのにそれが入ってないとか。
PP: シンクロのエレメンツは、シングルのエレメンツよりも出来不出来が分かりやすいというか。ズレや見映えとして明確に出ているので、初見の方にもオススメのスポーツだと思うんですよ。
CK: 列が揃ってないと減点になるし、隊形変化が早い・区間が狭い(選手と選手の距離が近い)と加点になります。
Step Sequence("No Hold Element")
PP: ステップで「一度もズレないステップ」っていうのを見ないくらい、16人で長くて1分強も揃わせるのはどのチームにとっても難しいと思うんですけど、上位のチームではズレても次の3〜4歩の内に合わせています!あれはどうやっているのでしょう?
CK: 「このステップをやっている時はこっちを見て」とか、「顔の位置」が決まっているんです。両側の選手が見えて、自分の視界に入っている選手には絶対に合わせなきゃいけない。そこで、「(視界の端の)ここの人が見え過ぎている」という場合には「あ、私ちょっと前にいるなあ」とか「ここの人が見えないなあ」という時は「後ろにいる」と分かって、微調節するんです。大体、選手ごとに「この人を見て揃える」という基準が決まっています。隊形の外側に並んでいる選手を見ながら・中の選手は周りの選手との間隔やスピードを合わせる、とか。
PP: 一人一人その時その時で目に映る景色を覚えてグリッド線(方眼)みたいな基準を作り、自分自身をはめ込んでいるんですね。その微調節で周りの2〜3人もズレてくる時があって、それがまた微調節でカチッと合う、と。
CK: ずっと同じ進行方向ではないので、戻る(Retrogression)場合はまた別の基準になります。
PP: 「前の位置に戻る(Retrogression)」とか「逆方向にターン」とかは基準が変わって難しいから、それらがレベル要件としてあるんですね。
PP: ⋯ひとつひとつのステップでグリッド線も変わるし、本当ーーーに頭を使いますね!
CK: (笑) そうですね。常に動きながら、先のことも考えないといけないですし。
CK: それから、ステップもブロックもそうなんですけど、自分自身の足元も考えないといけなくて。ちゃんとステップを踏まないとレベルが取れないので。
PP: ステップで明らかにズレている人を見つけたらどうしましょう?
CK: 「その子に言う」(笑)
PP: 明解(笑) 声に出します?
CK: 試合ではさすがに出せないですけど、練習中はたまに「列に合わせて」とか言います。
► ポジションの解説
PP: ポジションについて、千彩子さんは「端」という、隊形変化の要になるような司令塔のポジションだと思うのですが。
CK: それは身長が低いからなんですけど。アンドレア(ドハニー)コーチは、背の順で揃えるという方針で。ただ、「端」はシンクロのテクニックと知識を一番問われます。12-13シーズンのラインでは端に入らせてもらえなかったんですよ。端から2番目に入っていて、その時は「まだテクニックを理解していない」と言われて。今シーズンは初めてショートもフリーも両方端をやらせてもらえました。結構叱られたりもしたんですけど(笑)、そのおかげで身についてきたかなという感じですね。
CK: 端の選手と真ん中の選手では、同じエレメンツでも考えることや意識することが違います。やっぱり端っこの人が間違えちゃうと列全体が間違えちゃうから、責任重大で。「自分がどういう風に動くと列はこう動く」というのを常に把握してないといけないので、端はすごく難しいですね。
PP: 起点や支点になっている「端」の千彩子さんの少しのズレが、全体の大きなズレを生んでしまいますね。⋯千彩子さんは絶対間違えられないですね!
CK: (笑) タイミングもそうですし、列を引っ張る時にどのくらいの角度で入っていくかとか、頭を使いますね。
PP: 千彩子さんから見て「アッ この感じで行くとズレてしまう」という場合、当初の予定から変えて、端の千彩子さんが臨機応変に調整されるんですよね?
CK: 「これぐらい(間隔を)空けとかないと無理だろうな」とか。
PP: アドリブで!
CK: まったく同じ動きを毎回のようには出来ないので。
PP: まさに要のポジションですね!端に男性が入っているチームもありますね。
CK: 大概、端をやってますね。それも背の順で入っているんですけど。中に入ると列がでこぼこしますし。
PP: ウィールでは、風車の中心の選手と外側の選手で、その働きは随分違うようですね。
CK: ウィールだと、中心の選手がテクニック・外側の選手がパワーっていう感じですよね。列の一番上(=中心)の選手は、ウィールを移動させなきゃいけません。ずっと同じように回ってたら移動出来ないから、「この時にスピードを上げてこの時に緩める」というタイミングを意識しています。後ろの選手はそれに合わせて動いて、常にずっとスピード上げて漕いでないといけないし、遠心力に耐えないといけない。「列を張る」ことと「列を真っ直ぐに整える」ことを意識しています。
PP: 端の千彩子さんには、チーム全体が見えますか?
CK: 私が一番見やすい位置にはいるんですけど、全体は見られてないです。だから、ほとんど『感覚』で合わせています。
例えばラインだと、ずっと(2つの列の接地面が)90°を保ってないといけないんですけど、ずっと90°に自分(=列の先頭)がいるのかが最初は把握出来てないんです。コーチに「この時に90°から外れるよ」と指摘してもらって、「もうちょっと深めに入れば90°を保てるのかな」とかいろいろ試しながら練習をして、「今のはOK」となった時の『感覚』をインプットする、みたいな。最初からは出来ないんですよ。経験と練習量ですね。
PP: ⋯職人中の職人ですね!
CK: (笑) そうですね。全体は見えてないので。
CK: 移動する時も、自分のホームリンクだと氷面に目安になる線(アイスホッケーで使用される)があって「ここからここまでは何メートル」とか覚えているんですけど、試合になるとほとんどの会場でその線がないんですよ。だから、「このくらい動いたら何メートル動いている」とか、『感覚』を身につけて。その感覚を持ったまま試合に臨みます。
PP: 「何メートル」という感覚を?
CK: サークルやウィールでは「何メートル移動しないとレベルが取れない」とかあって。ホームリンクより小さいリンクだと大変です。フェンスギリギリまで行っちゃったり、ぶつかったりとか。
PP: 端の選手がその絶対感覚を身につけるまでの苦労やそれに合わせるチームの頑張りは、想像を絶しますね⋯
CK: (笑) 同じことを何回も何回もやるっていう感じです。
PP: もう本当に地道な練習で。演技の華やかさからは想像がつかないですよ!
CK: 滑っているほうは本当に大変なんです(苦笑)
► シングルとの違い・シンクロ特有の見どころ
PP: シングルでは「特にジャンプの時は音楽を聴かない」と言われていますが、シンクロはどうなのでしょう?
CK: シングルだと、ジャンプの時に音楽を聴いてしまうと動きを音楽に合わせてしまってよくないんですけど、シンクロは常に聴いてないとだめです。動きのタイミングが全部曲に合っているので、ちょっとでも逃すと1人だけズレちゃうんですよ。シングルをやっていたので、そこは適応が一番難しかったところですね。最初は大変でした。
PP: ⋯自分自身が曲に合わせて動き・自分自身のレベルも意識して・自分自身の位置も考えて・全体像も考えて・先のことも考えて、ってこんがらがりますね!
CK: 休む暇がないですね。考えないのはリフトで上がってる間だけですよ(笑) 終わるまで頭フル回転って感じです。
PP: シングルとは考える量が全然違いますね。それを分かりながら見ると、もっとシンクロがカッコイイです!
PP: シンクロの練習方法として、効率を考えると、1日にいくつもの技を練習するよりも、何か1つの技を完成させるっていう練習になると思うんですけど。
CK: そうですね。でも、シングルもシンクロも両方言えるんですけど、ドツボにはまっちゃうと、ほんと抜け出せなくなっちゃうんで(笑) その時は切り替えて次のことをやったほうがいい、っていう感じですね。
PP: シンクロもそうなんですね?失敗までもが一体化して(笑)
CK: 「今日はコレだめだ」みたいな日があります(笑)
CK: シングルと同じなんですけど、練習では出来ても曲の中で出来ないとか。繋ぎから入ると出来なくなっちゃう。
PP: シングルもシンクロも、練習のスタイルや上達の過程は同じようですね。
PP: シングル同様に陸で振付を合わせることもありますか?
CK: そうですね、でも氷に上がると全然違いますね(笑)
PP: (笑) それは、×人数分の違いが出るでしょうね。
PP: シンクロは大所帯でチーム競技ですから、シングルよりも対抗意識があるのかなと思っているんですけど。
CK: チームでも、サッカーとかホッケーのように対戦ではないので、「自分達のプログラムをやる」ということにおいてシングルとは変わらないですね。
PP: それはよかったです!チームになっちゃうと「絶対負けない!」みたいな気持ちが出て来るのかなと思って。
CK: あ、「負けたくない」っていう気持ちはすっごい強いんですけど(笑)
PP: あ、そうですか(笑)
CK: でも、負けたくないからやることっていうのは「自分達がパーフェクトな演技をする」っていうことだから、相手の演技には関係ないです。
PP: 他のチームを応援したりしますか?
CK: します!一緒に試合に出たチームとか。
PP: 「神宮アイスメッセンジャーズグレース」とか。
CK: それは一番(笑)
PP: 衣装とメイクも、シングルとは違いますよね。
CK: 大きな違いは、シンクロのスカートは膝丈ぐらいで長いですね。
PP: ルールに入ってるんですかね?
CK: いえ、私もなぜだか分からないんですけど、伝統なのかな?って(笑)
PP: (笑) 氷面に広がる色の面積が大きいと壮観ですね。
CK: メイクは、見てすぐ分かるんですけど(笑) 、シングルより全然濃いです。
PP: サプライズの"サーカス"では、ピエロのメイクもしていますね。
CK: プログラムのテーマを押し出すアイテムのひとつみたいな感じですね。統一感を出すことも意識していると思います。
PP: 顔の造りがそれぞれ違うところ、皆同じ顔にしなくちゃいけないですね(笑) そして、顔にラインストーンが貼られている場合もあります!
CK: 多分、どこかのチームが貼り始めて、それからブームみたいになってますね(笑)
PP: (笑) 空前のラインストーンブームも皆さんに御覧頂きたいです!
CK: 他に、シングルにないところと言えば、皆表情を決めているんですよ。
PP: 表情もシンクロナイズドで!?
CK: 「この時はこういう感情だからこの表情をしよう」と統一しています。哀しいプログラムだと皆眉毛下げたり。それはほんとに、会場に行かないと見えないです。
PP: 是非見たいです!
CK: 感情から合わせて。「ここではこういう感情になろう」って。
PP: 感情もシンクロナイズドで!!
CK: 10-11シーズンのサプライズのショートは"Too Late to Apologize"っていう曲だったんですけど、全員で泣きそうな顔で演技してて。それは観ててすごく感動しました。
2010-11SP"Too Late to Apologize"
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