title_mail.jpg Tatsukism Notebook P5
樹学ノート P5
Pigeon Post interviewed Tatsuki MACHIDA 町田樹選手 @ Kansai University in Senriyama 関西大学千里山キャンパス.
thanks to: JAPAN SPORTS for photos, PAJA for illustrations
by AIKO SHIMAZU 島津愛子
May 29, 2014 in Osaka

Tatsuki MACHIDA 町田樹 © Japan Sports
2012-14FS"The Firebird" @ 2014 Sochi Olympic Games


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► 新訳"エデンの東"
町田樹×フィリップ・ミルズの化学反応 〜サリナスの風が吹く〜
► 絶体絶命の全日本で起きた「人体の不思議」
己を知り、己を制す「⋯それこそ timshel でしょ?」— そして町田樹の13-14シーズンは"timshel"になった。
► ビッグマウスと町田語録の真相


☞ P5
► 全てが繋がった オリンピック〜世界選手権
『失敗を失敗で片付けない』|荻山先生に捧げたソチ五輪エキシビション
► テイストと歌詞についての考察
► 新作"Je te veux"の御案内
► 宇宙人にひとつだけあげるもの
► timshel道を共に歩んだ皆さんへ、ビデオメッセージ


PP: 全日本明けからオリンピックまでのコンディションはどうでしたか?

TM: ソチオリンピックに初めて出るということと、日本でオリンピックに出場するような選手がたくさんいる中僕が行かせて頂くというので責任感もありましたし、そういったプレッシャーもあって、オリンピックまでの期間というのは練習も大変でしたよ。思うように身体も動かなかったり、疲れもあるし⋯ちゃんと2013年の疲れが落ち切らないまま、オリンピックの準備に入ったから。時間がなかった。だからオリンピックの前の準備としては、とても良い練習ではなかったですね。

PP: 全日本時の全身状態は緩和されましたか?

TM: もちろんもちろん、それが第一で、疲れを取りつつオリンピックに向かうということをやってたんだけど、でもそれでも、完全なオフを取ることは出来ないから。メディア対応もあって、そういう制約の中で自分の出来る最大限の準備をやってたっていう感じなので、決して理想的な準備ではなかったですね。

PP: ユーロスポーツの方が世界選手権のショートの解説で言われていたんですけど、「オリンピックで、Tatsuki を練習から何回も何回も観てたんだけど、あの練習からこんな演技になるとは!」と。ソチでは調子が悪かったって。

TM: はい⋯

PP: エキシビションの日が一番良かった感じですね⋯

TM: (笑) 男子からエキシビションまでは長くて、疲れも取れてましたからね。でも、エキシビションも「試合」ですから!競技ではないけど、そこに組み込まれているわけだから僕は全力でやる義務があるし!競技とかもろもろのプレッシャーもなかったですし、結果的に調子が良かったということですね。


TM: オリンピックは、会場の雰囲気も独特だったし⋯僕は、決してフィギュアに適した会場ではなかったなと思いますね。

PP: ハビエル・フェルナンデス選手も世界選手権の会見で言われていましたね。
(他のスケート競技と共用のリンクで本番が行われ、練習環境や観客の反応も通常のフィギュアスケートの試合とは違っていた)

TM: それはもう、オリンピックだからしょうがないですね。祭典だし!

PP: Olympic「Games」で。

TM: 選手にとっては決してベストな試合運営ではなかったけど、皆が同じ条件なんだからその中でやっていくしかないし。
今回初めてオリンピックと世界選手権を経験させてもらったけど、どっちの価値が上とかじゃなくて、表情は全然違いますよ。両方大事だけどね。

PP: オリンピックは「残念」⋯ (団体戦フリーから4日後のショートでは、決定率があり加点も稼いでいたジャンプにミスが出て11位。フリーは冒頭の四回転転倒から盛り返し4位につけたが、惜しくも総合5位に)「表彰台まであと一歩で、残念だったな」って私は思ってるんですけど⋯(哀)

TM: (記者を励ますように、ここまでで一番元気に)そうそう!

PP: 「そうそう」!?(笑)

TM: メダルを本気で狙ってたのにねぇ、勝敗だけじゃないのは当然なんだけど、(銅メダルのデニス・テン選手と)約1.7ポイント差で逃したっていうのは⋯とても残念で哀しかったし!(状況や言葉をフリに、爽やかに回想する様子。全然残念そうでも哀しそうでもなく、ボケにふき出す記者)
でも、あの悔しさだったり哀しさがなかったら、世界選手権であれだけの演技が出来てないんですよ。
(ショート・フリー共に最高の演技で両方自己ベストを更新し、初出場で銀メダルを獲得。1シーズンで総合得点を45点引き上げた。優勝した羽生結弦選手と0.33ポイント差の総合282.26は、史上4番目のスコア。自己ベストランキングではパトリック・チャン選手羽生選手に次ぐ世界歴代3位。☞ 図版で確認) オリンピックで銅メダルを取って、世界選手権のさいたまスーパーアリーナであのSP"エデンの東"FS"火の鳥"が出来たか・あのスコアが取れたかって言ったら、絶対出来てないし・取れてないです。あの悔しさがあったからこそ、世界選手権の前の良い準備が出来たわけで。
そういう意味でオリンピックは「次に繋げられた」ので、僕にとってはまあ「大成功」なんじゃないかな!と⋯今思うとね。当時はショックだったし自分の中では「失敗かな」という意識はあったけど、シーズンを終えて今振り返ると、全てうまーく繋がっていて。もっと言えば、全日本であれだけ辛い思いをしてもぎ取ったからこそ、オリンピックそして世界選手権があるわけだし。⋯誰もがそう思うんだけど、後から振り返ると全部がちゃんと、きちんと繋がってるんですよ。
『失敗を失敗で片付けない』というか。失敗からも学んで次に繋げて、「その失敗が自分にとって価値のあるものにする」のが大事かなと思いますね。

PP: ⋯「オリンピックさえステップになる」って言ってるアスリート、あんまりいないと思いますよ(笑)

TM: オリンピックの後は燃え尽きちゃったとか引退とかあるけど、僕はね、オリンピックの後さらに燃えたんですねー。

PP: オオー!


Tatsuki MACHIDA 町田樹 © Japan Sports
2013-14SP"East of Eden" @ 2014 Worlds


Tatsuki MACHIDA 町田樹 © Paja
EX"Don't Stop Me Now" @ 2014 Sochi Olympic Games


PP: 好調だったソチ五輪エキシビションの"Don't Stop Me Now"ですが、あれは振付の荻山華乃先生のために滑ったんですか?

TM: あっ、そうです⋯(照)

PP: やっぱり!

TM: (キリッと)それもだし、"Don't Stop Me Now"は、Queen の曲しかり、それと共にやる表現も、多分、万国共通で全世界の人が分かって下さる。「分かり易い」という意味じゃなくて「共感」して下さるだろうな、っていうのがあって戦略的に選曲したし。(オタク青年[geek/nerd]の空想の中で、「楽しんでる having a good time」という唄に乗って弾けるプロットがある)
荻山華乃先生は一番僕との付き合いが古くて、最初に僕に踊るよろこびを与えて下さった先生なので、やっぱりオリンピックでは荻山先生のプログラムを滑りたかった、という思いは強いですね。

☞「師」と仰ぐ荻山先生について*2013年6月のインタビュー (12000字)

PP: オリンピックの後、荻山先生から何か言われましたか?

TM: (とてもうれしそうに)はい⋯

PP: 「ありがとう」って?

TM: ⋯はい(照)

Tatsuki MACHIDA 町田樹 © Paja


PP: 町田樹選手の「作家性」についてなんですけど、

TM: 「作家性」は、ないないない!(笑)

PP: (笑) いえいえいえ!これまでたくさんプログラムを滑られているんですけど、そのレパートリーの根底にある「らしさ」みたいな⋯例えばですね、私はカロリーナ・コストナー選手と、ジャズミュージシャンのチェット・ベイカーと、マカダミアナッツが、どうしても同じように感じるんですよ、

TM: うん(笑)、(まったく動じない樹先生)

PP: やさしい中に濃厚で豊潤、っていうタッチがある。それで言うと、町田樹選手は鮮烈な叙情性っていうか、樹さん御自身はお茶好きの方なんですけど、ハワイコナ・エキストラファンシーっていうコーヒーみたいな。ハワイコナ・エキストラファンシーは、飲んだ瞬間にマリンブルーの世界が広がるんですよ!描写が鮮やかというか、

TM: あー(笑)、

PP: そういう「タッチ」があると思うんですけど、御自身ではどういう風に感じられているのかなと。

TM: どうだろう⋯(タッチがあるというのは)自分に合う表現だったり物語性が直感的に分かるんだと思う。それは僕自身だけじゃなくて、他のスケーターにも「こういう表現が合うだろうな」とか「こういう動きが似合うだろうな」と、今結構想像したりもするし。そのテイストから外れた振付は"白夜行"でも"Je te veux"でもしてない(白夜行も Je te veux も自身作のエキシビション)。あれが自分に合うと思ってやってるから。"白夜行"なんかは僕のテイストだったんじゃないかな、と思うし。
言語化するのは難しいんだけど、「その人に合うテイスト」っていうのは見えるような気がする⋯直感でしかなくて、当たってないかもしれないけど。

PP: 他の選手のも見えるんですね?

TM: 他の選手を振り付けしようとは思ってないですよ!(笑)

PP: してほしいですよ!(笑)

TM: 今現在は思ってないですけど、「この選手はこういう動きをやったら美しいんだろうな」とか⋯浮かぶから。


PP: 新シーズンは、あるルールの変更でフィギュアスケートにとって大きな転換点になると思っていて。シングルとペアも、アイスダンスに続いてプログラムに歌詞の使用が認められるんですけど、演技に「(ISUの表現で) music with lyrics=歌詞」が加わると言うよりは、speaking medium=意味を持った歌唱が作品に入ると捉えています。それについて樹さんに考察頂こうと思ってるんです!

TM: いや、使いたい人は使えばいいし使いたくないなら使わなくていい——それは個人に委ねられているから、そのルール自体僕は否定しなくて、むしろウェルカム。自由が広がりますからね。だけれども、気をつけて採用しないと、フィギュアスケートの作品性はちょっと落ちたりするかもしれない⋯

PP: だと思ってて!

TM: 要は、歌詞があることによって表現の自由が狭まるという考え方も出来る。歌詞で「僕はとっても哀しい」って言われてしまったら哀しい動きしか出来ないわけで。だけどそこにリリックがなかったら、哀しそうな音楽だとしてもその解釈は自由なわけです。意味のある言葉が音楽に乗ってしまうと、その歌詞と整合の取れない動きは出来ないんですよ。
言語の壁もあるし。日本語の歌詞のプログラムを国際試合で出来るのかって言っても⋯やってもいいんだろうけど「歌詞のある意味って何?」ってなるし。
だから、『歌詞がある意味』っていうのを分かっとかないと。ただ「唄入りで踊りたい」とか、そういう考えで歌詞入りの音楽を採用することは危険だ、と。「僕にはこの歌詞が必要なんだ」「こういうことがしたいから、この曲でやりたいんだ」という明確な自分なりのコンセプトだったり考えがあった上でそれを採用しなければ、歌詞入りを選ぶメリットって少ないかなと思いますね。

PP: フィギュアスケート選手を踊り手として考えた場合、勝負の世界で心技体の頂点を極めている方達ですから、その動きなり存在がこちらの感性に直に響いて、言葉をしのいでいる面もあって。言葉によって作品が小さくなってしまうんじゃないかなと⋯

TM: うーん⋯身体表現は、言葉にならない想いとかを伝えるコミュニケーション手段とも言えて。でも、別にそこはいいの、個人の裁量だから。

PP: ⋯諭して頂きました(笑)

TM: だけど僕の予想だと、歌詞入りを選んでくる選手は極めて少ないと思う。

PP: よほど踊りにタッチがないと、皆一様にミュージカル調とかカラオケみたいになってしまう、っていう感はありますよね。

TM: うん⋯でも個人の自由なんですよ。


PP: 新シーズンの競技プログラムについてはまた次の機会にということで、御自身作の2作目となるプログラム、エリック・サティ作曲のエキシビション"Je te veux (英名: I Want You)"についてお願いします!(GWの風物詩「プリンスアイスワールド横浜公演」で初披露された)

TM: ロベール・ドアノーの「パリ市庁舎前のキス」というあの有名な1枚の写真からインスピレーションを得て、サティの曲もあり、そういう世界観——1950年代のフランス・パリの色、テイストを氷の上で表現出来たらいいなと思って創った作品ですね。

☞ ロベール・ドアノー撮影「パリ市庁舎前のキス」

PP: 写真を見てサティの曲が浮かんだのですか?

TM: どうかな⋯それ皆に聞かれるけど答えるのが難しくて。写真を見て「サティの Je te veux で、この写真をコンセプトにして創ろう」っていうのじゃなくて、あの写真が自分の脳内にあって・サティのあの誰もが知っている曲もあって⋯何かきっかけがあったんでしょう、大分前だったから僕も詳しく憶えてないけど(笑) "Je te veux"を企画してたのも2013年の夏とかですから。

PP: アア!6月のインタビューで「"白夜行"の他にも企画しているプロジェクトがある」と言われていましたね。

TM: そう。漠然とだったけど、2つの作品が結びついて、1950年代のパリのテイスト、お洒落な感じをお客さんにも感じて頂けたらいいな、と。"白夜行"は、主人公の悲劇性にオーディエンス側がのめり込むというか、どっちかと言うとプログラムに「引き込む」んだけど、"Je te veux"は、オーディエンス側に「委ねる」「渡す」って感じで。もちろん真剣に見てもらいたいんだけど(笑)、コンセプト的には、お洒落なカフェでティータイムをたのしみながら見る作品、っていうのが創りたかった。僕のイメージ的には、昔の映写機で流すような映画⋯(フィルムを回す際に)カシャカシャいうような。(昔のフィルムは映像に独特のあたたかみがある) ああいう雰囲気を見せていきたかった。


Tatsuki MACHIDA 町田樹 © Japan Sports
EX"Je te veux" @ 2014 Prince Ice World


PP: こちらも、シャレの利いた質問をお別れに御用意しております!「Q. 宇宙人に一つだけあげるとしたら、何でしょう?」

TM: (笑) 難しいなぁー⋯

PP: (笑) お願いします!この質問はもう、世の中で一番好きなQ&Aなんですけど、ジョン・F・ケネディが、宇宙人騒動の時に聞かれて「A. 通販のカタログ。」って答えたんですよ。そういう大喜利な感じでも⋯

TM: 「予定構成」を頂いた時に考えたんだけど、全然思いつかなかったんだよな⋯

PP: 事前に考えて下さってありがたいです!「宇宙人に贈るもの」だから、何か人類を表してるものとか、地球とか人生を表してるもの⋯何かのベストとか⋯

TM: ⋯(おもむろに爆発的集中力で思案を巡らせている様子)⋯「時計」は?

PP: 「時計」!?(ワクワク)

TM: この24時間365日っていう尺、この基準は、地球だから起こり得てることであって、「人類はこの基準で動いてるんだ」っていうこの尺度を宇宙人に教えてあげたらおもしろいかも(笑)

PP: (笑) 宇宙人には時間っていう概念がなさそう。

TM: (笑) 分かんない、僕達も持ってるわけだから。地球人だって宇宙人でしょ。

PP: (笑) そうだった。地球時間を与えて様子を見るの、イイですね!(笑)

TM: 「時計」っていうのを説明せずに⋯

PP: 言わずに?(笑)

TM: 「ぐるぐる3本の針が動いてる⋯これ何だろう?」みたいな、

PP: 考えさせるんですね(笑)

TM: っていうのもおもしろいかも(笑) 時間っていう概念が全然違うだろうから、それを紹介するのもおもしろいと思う。自動巻は動力要らないし!(笑)

PP: 「自動巻」?

TM: (御自身の自動巻時計を見せて下さる樹先生)この振り子みたいなのが中で動いてるでしょう、本体が動くことで振り子が振れる。自動巻は、自身でゼンマイを回してパワーをチャージしてるんですよ。重力の関係もあるけど、それは除外して⋯

PP: それ、遅れないんですか?

TM: そこが人間の知恵で、遅れないんです。だから時計って高いし。クォーツだと電池が要るけど、電池は地球にしかないでしょ、多分。自動巻だったら人工的なエネルギーが要らないわけだから。(本体を)動かし続けてないといけないけど、着けとけば動く。だから、あげても大丈夫かなと(笑)

PP: (笑) アフターサービスのことも考えて!好奇心や探究心、尺度と知恵+気遣いも贈るという(笑) これで、完璧に気の利いたプレゼントを宇宙人にあげられます!


PP: 今回も、最後のビデオメッセージで締めくくって下さい。ソチ五輪シーズンを共に過ごされたファンの皆さんへお願いします!

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Tatsuki MACHIDA 町田樹 © Pigeon Post

► Tatsuki MACHIDA 町田樹選手 @ Kansai University 関西大学 on May 29, 2014


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町田樹×フィリップ・ミルズの化学反応 〜サリナスの風が吹く〜
► 絶体絶命の全日本で起きた「人体の不思議」
己を知り、己を制す「⋯それこそ timshel でしょ?」— そして町田樹の13-14シーズンは"timshel"になった。
► ビッグマウスと町田語録の真相

☞ P1(前回2013年11月のインタビュー)から読む (16000字)

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