
Pigeon Post interviewed Tatsuki MACHIDA 町田樹選手 @ Kansai University in Senriyama 関西大学千里山キャンパス.
thanks to: JAPAN SPORTS for photos, PAJA for illustrations
by AIKO SHIMAZU 島津愛子
November 5, 2013 in Osaka
2012-14FS "The Firebird" @ 2013 Skate America
TM: そうそう、その「固定概念」で言うと、『原点回帰』が今シーズンやったこと、ってさっき言いましたけど、もう一つあって、
PP: 頂きます!
TM: いろいろやって来て、精神面でも肉体面でも ちょっと伸び悩んでたわけですよ、去年は。で、さらに爆発的に成長するために「自分に何が必要なんだろう?」ってことを考えた時に、まず一つは『原点回帰』——基礎に立ち返って⋯(前回)ピラミッドの話、しましたね?
PP: 頂きましたね!
TM: その土台をさらに頑丈に広くする、ということを含めた『原点回帰』が一つ。
もう一つが、自分の中にある、スケートに対する常識だったり固定概念というものを捨て去る。
TM: 僕、もう3歳からスケートやって、20年間スケートやってるわけです。20年間やってると、どうしても自分の中で固定概念とか、無駄な考え、
PP: 先入観みたいな、
TM: そう、例えば「四回転は難しい」とか「フリープログラムはしんどい」とか、いろんな固定概念がガチガチにしこりとなって自分の中に在るんですけど、『固定概念を全て捨て去る』というのも 一つやったことで。
TM: なんて言うんだろう⋯抽象的なんですけど、例えば、ですよ、スケート界を20年間「冒険」していくと(笑)、
PP: (笑) ハイ!
TM: (笑) いろんな金銀財宝が手に入るわけですよ、アクセサリーとか、
PP: (笑) イタダキ、と、
TM: でも時間経過と共にくすんできますよね、それを一生懸命日々磨いて輝きを保とうとしていたわけです、自分の中で。
だけれども、自分の手元にあるアクセサリーは「形」を変えず、長年そのまま、というか⋯それが=良くも悪くも「固定概念」とか「常識」みたいなものだとしたら、それを一回 自分の中の溶解炉に全部バシャバシャと落として、溶かしてですね、「自分の作りたい、新しいアクセサリーを作ろうじゃないか」と。とてもリスキーなんですけど、自分の中にたくわえてきた「当たり前」だったり「大事なもの」を一回溶かして、それを元に「新しいもの」を創ろう、と。
TM: ⋯もう一個、例を挙げるとしたら(笑)、
PP: (笑) 頂きます!
TM: 幼虫が、
PP: 「幼虫」!?(ワクワク)
TM: 蝶の幼虫が、さなぎになって羽化する、その「さなぎ」になる時——「外殻」を硬く覆い、その中で何をしているかと言うと、『アポトーシス』って言って、今まで自分を形作ってた細胞を自分で殺してるんですね、
PP: えぇー
TM: プログラムされた「細胞の自殺現象」とでも言いますか、一回、自分で自分の全細胞を破壊して、全てドロドロの状態に混ぜるんですよ、
PP: おぉー
TM: 「さなぎ」ってその段階なんですね。「幼虫」の姿から、細胞全てを自分で破壊し、新しい姿をそこから成形する。
PP: そうだ!
TM: このオフシーズンは僕も、
PP: 「さなぎ」だったんですね!
TM: そう、硬い外殻で覆って、ひたすらコンパルソリーとか、基礎をはじめ凡事徹底という考えに立ち返りながら、ひたすら自分の中の常識とかどんどん壊していって、自分自身をひたすらに破壊して、もうドロッドロの⋯何にでもなるような状態、つまり 自分で『アポトーシス』という状態を作って、「新しい町田樹」「新しい町田樹が追求するスケート・表現」を創り直した、というのが今シーズンにやって来たことですね。
TM: ソチオリンピックに向けて、うまく「さなぎ」から「蝶」へ羽化できたら、と。「新しい火の鳥」になり羽ばたいていけたらいいな、という思いもあります。
PP: ⋯「アポトーシス」(という生物学用語)まで出て来ましたかー(笑)
TM: (笑)
PP: イイたとえを頂戴しました!(笑)
TM: 自分の中の常識だったり、思い込んでいた先入観だったり、つくり上げていたガチガチの固定概念を、一回 全て自分で破壊して、ドロドロの状態にして、新しい形にクリエイトする、ということを心がけましたね。
だからほんとに、今年のオフは、20年間で味わったことのない、というか、「こんなオフシーズンは過ごしたことがない」というようなオフシーズンでしたよ。(満足そうに楽しそうに振り返る様子)
TM: 「関西大学(文学部)復学」もその一環で、「フィギュアスケートに100%打ち込んで集中しないと、絶対ソチオリンピックに行けないよね」っていう、その考えではなくて、やはり『文武両道』であるべきだな、と思ったし、その中でソチオリンピックを目指せたら、と。それで、理想とする本来のアスリート像に近づけるんじゃないか、と。
PP: ⋯ま、まさか、今も学校に来られてるんですか?
TM: 毎日。
PP: エェーーーーー!
TM: (笑)
TM: ⋯現代は、アスリートが文武両道を志すことが難しい、という気がします。僕もそうだったと思います。
PP: 上に行こうと思えば⋯
TM: でも、その文武両道が崩壊し始めて 何が起こったかと言うと、「アスリートのセカンドキャリアの問題」なんじゃないかな、と僕は思っていて。スケート界だけではなく、今それが社会現象にもなってると思うんですよ。
だから、しっかり学校と両立して。現役でいられる時間は「人生の内の4分の1」位ですよ、たかが。
PP: そうだった。
TM: だから、要は引退してからの「余生」のほうが長いわけです(笑)
PP: 「余生」(笑)
TM: なので、そこまで見越すとやはり、理想的なアスリート像というのは文武両道を貫いて、セカンドキャリアのことまでしっかり考えられるアスリートだと思うんですね、それが多分 一流のアスリートだと思うんですよ。
僕が思うその一流のアスリート像というものを目指す上で、この4月から復学しましたし。
TM: 今、田中刑事選手をはじめ、ジュニアの世代もたくさん育ってきてますけど、彼ら後輩に(文武両道の)一つのお手本となれるような、そんな存在になれるように、ということも目標としてやってますね。
PP: 「両立 出来るんだよ!」っていう、
TM: 両立⋯出来るのかな?っていう(笑)、
PP: (笑) 挑戦で。
TM: (笑) 自分自身の挑戦でもありますし。⋯前だったら、「学校行ってたら絶対ソチオリンピックなんて行けねぇや!」みたいな、それも固定概念、っていうか、
PP: そうだ!
TM: ある種の 自分を支配してた考え方なんですけど、それを一回全部壊して。「違う」と。「一流のアスリートはこうだ」と。⋯ということですかね、うん(笑)
(前回に続いて、俯瞰で「攻める町田樹」の挑戦を楽しそうに見守っている感じの樹さん)
PP: ⋯ということだったとは!(笑) まさか、町田樹選手がそういう枠組みで捉えられて、このオフを過ごされていたとは、皆さん思われてないですよ!
TM: (笑) どうなんでしょう。その2つが多分、僕を大きくした要因だと思います。『原点回帰』と『アポトーシス』。
2013-14EX"白夜行" @ 2013 Skate America
PP: 昨季の大阪の四大陸選手権(2月)で、日本男子三選手(高橋大輔・羽生結弦・無良崇人選手)への 周りの「(敵対関係の)煽り」がすごくて。試合前の前日会見やその報道でもそういう感じで。
TM: うん、
PP: でも、御本人達は、三者三様に互いを思いやられて、切磋琢磨する日本男子チーム全体のことを見据えたお話をされていて⋯ 自分は、先程の「エデンの東」のくだりがよぎることの多い、「⋯なんだい、大人って。」っていう、そういう段階なために、「諍い(いさかい)などない」っていう風な見出しを付けて「本当はこんな会見でしたよ」と、記事を皆さんにお届けして。 ☞ 水曜日男子会見|三者三様の思いやり
だから、「世間的に 代表争いでギスギスしてるかもしれないけど、実際はギスギスしてないぞ」っていう声明を樹さんにお願いしたいな、って。
TM: (笑) そうですね⋯ 日本選手皆、ほんと仲が良いんですよ、
PP: そうなんですよ!
TM: でも、僕は結構⋯一匹狼で行っちゃうタイプなので(笑)、
PP: (笑)
TM: その輪にはあまり入ってないんですけど、でも、びっくりする位 仲が良いのに、なんで争ってるんだろう、って思っちゃうこともあるんです。
PP: そうなんですよ!
TM: でも、その周りの反応とかは⋯ 僕にとっては「自然」、というか。
PP: !?
TM: 要は、オリンピックって3枠しかないわけですよ、この日本男子の層の厚さで。それを勝ち取ろうと思ったら、やっぱり「やるかやられるか」——「やる」という字は「殺す」という⋯(笑)
PP: (笑) 「殺るか殺られるか」で、
TM: その「殺るか殺られるか」の戦いになる。でも、日本チームとしてはあたたかいので、とても。
⋯だから、どっちもあり得る、というか。いいんじゃないでしょうか、どっち(の見方)でも(笑)
PP: (笑) ⋯諭して頂きました。
TM: (笑)
TM: しかし一方で、今年は、ほんとにあの⋯ 僕の中では もう、「勝ち負け」ではなくて。
やはり、ショート・フリー共に町田樹史上最高傑作が出来た、と僕は自信を持っていて、僕とフィリップ・ミルズ先生と周りの先生方で創り上げたこの2つの作品を、「一つ一つの舞台でしっかりと演じ切る」、それだけに集中しているので、「勝つよろこび」とか「負ける恐怖」というのは、実はあんまり 自分の中ではなくて。
自分が持ってるこの2つの作品を、そこで出せるか否か。だから、『自分との戦い』なんですね、もう。
PP: 使命持ってる感じですかね、
TM: どっちかと言ったらそうですね、
PP: 「この作品のために!」っていう。
TM: そうです。去年までだったら、「あ、最初の四回転ジャンプ降りなきゃこの人に負ける」とか、「この点数を出さなきゃメダル取れない」とか、そういうことばっかり、アスリート的な欲に支配されてたんですよ。
今年はほんとに、点数とか勝ち負けは、もちろん頭にありますけど、それらは やったことに「後から付いて来る対価」なので。まずは、「自分らしく」「アスリートとしてよりも、氷の上には表現者として立ちたいな」、そういう思いでやってますね。
PP: その思い、すごく感じます!
TM: それは強く思ってます。今シーズンは、「勝ち負け」に拘ると——「オリンピックの枠」とか「(グランプリ)ファイナルの出場権」とか、欲が出て そういうことを考え始めると、我を失うので、絶対に。
『氷の上では、表現者なんだ』と。「この舞台で 創り上げた作品を演じ切る、オーディエンスの皆様にお届けするんだ」と、その思いだけに集中しています。
それは、僕にとって とても大事なことかもしれないです。だから不思議と、「勝敗」の不安とか技の「成否」の恐怖感とかは、ほぼ ないです。
PP: そうなってくると 強いですね。
TM: 「アスリート町田樹」は、すくなくとも今シーズンで引退する、って言ってて⋯そこからは、100%アーティスティックな戦い方をする、と。
今シーズンは、技も難易度の高いものをどんどん詰めてますから、やはり今の段階では 芸術面に多少の犠牲を払ってるわけですよ、
PP: 技術面が芸術面をオシて、
TM: ちょっと妥協してる部分もあるし⋯
PP: ⋯?
TM: 実際にそうなってる、ということは否定できないので、来シーズンからは自分の戦いたいように戦おうかな(笑)、ということで、
PP: 今以上に!?
TM: (笑) アスリート町田樹は今シーズン限りで引退し、来シーズンからは表現者として競技していけたらな、という思いが強いですね。
今シーズンももちろん、アーティストリィーは最大限に追求しますし、表現者として氷の上に立つんですけれども、勝負の世界で、アスリートとしての精神も今シーズンは忘れたくないので。
PP: なにしろオリンピックが!
TM: (「欲」という妨げになる)アスリートの精神は2〜3割自分の中で残ってるんですけど、来年からは それさえもなくなって。
PP: 完全なるパフォーミングアート作品としての、高次なエレメンツ・プログラムを、と。
TM: だから、今シーズンは集大成ですよね、20周年ということもあり。
PP: 「アスリート町田樹」のラストシーズンですね。
PP: それでは最後に、このインタビューの起点となった「250点を超えた暁」のメッセージを皆さんへお願いしたいんですけれども⋯ 「265.38」という、250点を甚大に超えた暁が、@「GPS初戦(スケートアメリカ)」という、早々に来て!
TM: (笑) よくソレ(かけあい)を(記事に)入れてましたね。
PP: (笑) よくぞ入れてましたね〜
シーズンに入ってしまうと、特に全日本が終わるまで、「試合以外で個別取材をお願い出来ない」と自分は思っているので、Pigeon Post の今オフのインタビュー終了間際に、6月20日の樹さんから、時空を越えて神スルーパスが出た!と(笑)
TM: (笑) でも、スケートアメリカの時も言ってたんですけど、この「265点」っていう数字が重くのしかかるようになるんじゃないかな、という不安もありますけどね。
まぁでも!さっき言ったような戦い方なので、氷の上に立ったらそういうことは関係ないですけど。だから、本当にこれからは、より一層自分自身との戦いになるな、と思います。
TM: 昔、僕 レーシングゲームやってて、タイムトライアルする時に、「前の自分」と戦うんですよ、過去のベストな自分の姿が半透明で現れて、そいつとレースする、という具合に。その、「半透明の自分」を越すのは、とても難しいんですよ、「自分のベスト」だから。
PP: 自己ベスト。
TM: それを維持、更新していく大変さを改めて感じますね。最大の敵は自分自身ということです。だけれども、僕の使命はやっぱり、「創り上げた作品を、僕を見ていて下さる方々にお届けする」ということ。ただそれだけです。
☟ 動画 (写真をタップ/クリック)
► Tatsuki MACHIDA 町田樹選手 @ Kansai University 関西大学 on November 5, 2013
☞ P4〜5 へ進む (13000字)
☞ 2012年四大陸選手権での無良選手とのインタビュー (on Japan Skates)