thanks to: PAJA for "skating angels" illustrations
by AIKO SHIMAZU 島津愛子
posted in July, 2015
皆様、新スケート年明けましておめでとうございます!
新シーズンに備えるために、澤田亜紀先生(関西大学アイススケート部コーチ)に「家でも出来る」スケートレッスンをお願いしました。陸で自分自身が体感し楽しみながら学んでいく【エアフィギュアスケート】です。ジャンプ・スピン・ステップ・フリースケーティングムーブ(エレメンツ以外の技)・練習・プログラム作り・試合本番といったカリキュラムで、フィギュアスケーターが経験することをエアで辿っていきます。
亜紀先生のスケートレッスン最終回は、フリースケーティングムーブ・エア試合出場までの取り組みです。
フリースケーティングムーブ
PP: エレメンツが出来た気になったところで、トップスケーターでおなじみのその他の技をやってみたいです!一番よく見る【バレエジャンプ】からお願いします。
AS: (図の上のように)フリップのような入りで、長細い「3」を描こうと2番目の山に入るところで踏み切って、後ろを振り返る時におへその前に左足を伸ばす、という風に私は飛んでいました。そうすると右足は勝手に伸びてくれます。
PP: [振り向きざまに左足を伸ばす]⋯イイ!反動がついて綺麗に伸びますね。
AS: ループのように入るパターンもあります。
AS: 女子は前後の開脚で縦方向に伸ばすことが多いですが、男子の場合はパッと横に開いて両手で爪先をタッチするんです。(図の左下)
PP: よく見ますね⋯
AS: テディベアのような⋯
PP: 「土」みたいな!(笑)
AS: (笑) あれはほんとに、脚力と腹筋がないと出来ませんね。ただ横に伸びるだけだと「大」になってそこまで印象的ではないので、下腹の力で足をぐっと前に持ってきてタッチするんです。
PP: ⋯ちょっとそれはエアでやるには怪我の覚悟が必要です(笑) 他にも、左膝は曲げて膝蹴りのような形で右足は伸ばしているもの(図の右下)も見ますが、あれもバレエジャンプですか?
AS: そうです。前後開脚のものよりも「忙しない」っていう感じになります。
PP: 膝を曲げる分、動作が多いですね。
AS: 前後開脚のものは、足を上げるというか「靴を上げる」と靴の重さで足が上がってくれるんですよ。
PP: 振り子みたいに!
AS: そう、でも膝を曲げるのは膝までしか上がらないし、着氷までが短くなります。
PP: [膝を曲げてバレエジャンプ]⋯すぐ落ちますよ。「シャッ」ぐらいの"ま"しかないです。
AS: その一瞬に綺麗な姿勢を作らないといけません。
PP: 次に、ジャンプの前によく見る【ウォーレイ】をお願いします。
AS: (反時計[左]回りのジャンプの場合)後ろ向きに右足のインサイドで踏み切って一回転し右足で降ります。右足踏切のルッツジャンプのようになって難しいんですよ。
PP: [右足を親指側に倒し一回転]⋯(進行方向と回転方向が)あべこべみたいになりますね。
AS: 過去に、「バック(後ろ向き)アウト(外側=小指側)」でウォーレイを飛んだ選手がいたんですけど、それは=ループジャンプなので「1Lo」がカウントされてしまい、最後のジャンプがキックアウトになっているケースもありました。
PP: ⋯ウォ⋯ウォーレイがそんな危険性をはらんでいたとは。
AS: 左足のルッツ/フリップと右足のウォーレイ/ループの関係性は同じなので、ウォーレイには注意が必要です。
PP: ウォーレイを見るスリルで、よりスケートがおもしろくなります!(笑)
PP: 羽生結弦選手のソチ五輪SPでおなじみとなった【ランジ】は前後開脚のものとこの横のものがありますが、ポイントはどうでしょうか。
AS: 後ろ足に体重をかけないで添えるだけ、って感じです。
PP: [右足だけに体重を乗せ「へ」]⋯あーしんどい!笑ってられない!(笑)
AS: (笑) そうしないと、後ろ足のエッジが「ガッガッガッ」と氷に引っかかって滑ってくれないので。
AS:【イーグル】と【イナバウアー】は、右足と左足の爪先を外に向けます。
PP: 陸で言うとバレエの2番ポジションですよね。
AS: そうです。トレースの上に両足が乗っているのがイーグルで、前足の膝を曲げ前足と後足の間隔を取って開くのがイナバウアーです。イーグルは、右足の爪先-踵と左足の爪先-踵を結んだ線が180°の一直線になっていないと進みません。120°ぐらいだと進まないんですよ。
PP: 進むことも出来ないんですか!?
AS: イナバウアーは、前足のほうの爪先をちょっとだけ余計に外側に開かないと進んでくれないです。イーグルは、アウト(後傾)の場合は180°よりも大きく開かないと進みません。だから、「皆、体が柔らかいんだな」と思って見て頂ければ(笑)
AS: 宇野昌磨選手の【クリムキンイーグル(カンチレバー)】は、レイバックイナバウアー(イナバウアーで仰け反る)のイーグルヴァージョンです。エッジはインに乗って仰け反っています。
PP: あー!バレエのグランプリエの![グランプリエ:180°に足を開いて腰を膝まで落とす→仰け反る→倒れる]⋯絶対出来ない!(笑)
AS: (笑) 自転車と同じで、スピードがあると出来ちゃうんですよ。(#2スピン・ステップ編参照)
PP: いつかグランプリエで仰け反りたいです!(笑)
エア試合出場まで
PP: さて。亜紀先生のレッスンにより、ここまでいろんな技をエアでやってきました。いよいよ、エア試合に出てみたいです!試合に出場するようになるまでの過程をエアで辿っていきたいです。まず、オフアイスではどんなことに取り組めばよいのでしょう。
AS: 私はバレエも習っていました。
PP: バレエを習われている選手は多いですよね。
AS: 上半身の踊り等表現面の向上ということもそうですし、腰の使い方が似ているんですよ。例えばジャンプでトゥを突く位置は、バレエの「タンジュ」ですね。
PP: そうです!!!
AS: バレエをやってる人にしか分からないと思うんですけど(笑)
PP: (笑) いえ、バレエのエアフィギュアスケートな側面が見えました!
AS: ジャズダンスもやっていたことがあります。バレエ音楽ばかりではないので、崩した感じでも踊れるように。
AS: 陸トレは、選手のタイプによって様々です。私のように筋肉がすぐつくタイプは自重トレーニングで、線の細いタイプの選手はウェイトトレーニングをしていますね。私はランニングもしていました。
PP: やはり持久力が要りますね。
AS: でも、陸の持久力と氷の持久力はまた違うんですよ。
PP: !?
AS: 使う筋肉が違うので。陸は陸・氷は氷で試合に向けて追い込んでいくんです。
PP: 「氷の追い込み」ってどういうものでしょう?
AS: クロスで(足を後ろで交差させ加速をつける)滑ってリズム変えたりしてまた滑って⋯という「ひたすらスケーティング」です!(笑) あとは、「プログラムを使った追い込み」です。1回全部通した後に1分休憩を置いてもう1回通す、とか。
PP: 陸の「インターバル走」みたいな!
AS: でもそれは練習環境が整っている場合ですね。
PP: 大人数が滑っていて混み合っているリンクで練習する時はどうしましょう?
AS: プログラムをパートに分けて、曲がかかっているつもりで前半を通し→1分休憩→また前半を通す、というような。2つぐらいのエレメンツを繋げてやる、とかも出来るかなと。プログラムの1つ目のジャンプと2つ目のジャンプを繋げてやります。皆それぞれのリンク事情に合わせて工夫して追い込んでいます。
PP: 人通りの多いリンクの皆さんの創意工夫ってカッコイイですね!
AS: (笑) 単発でジャンプを飛べても意味がないんですよ。やりやすい助走でやりやすい飛び方でやっても点数は上がらないので。やはり「演技の後半にしんどくなった時にいかにジャンプを飛べるか」がポイントだと思うんです。そのために皆工夫して練習してるんじゃないかなと。
PP: その演技後半の状況を自ら作り出しているんですね。
AS: 曲かけが繰り返し出来ればいいんですけど、その環境の選手は限られています。私がやっていたのは、ステップ踏みながらリンクを大きく5周した後→人を避けてジャンプとか。
PP:[人を避けてジャンプするイメージ]⋯人を避けると「入りの難しいジャンプ(加点要件)」になりますね!
AS: そうです。私は関大に来てからはリンク事情には恵まれていましたが、京都では28M×50Mのリンクで一般の利用者の方々と滑っていました。
PP: ⋯そういう選手達を応援してほしいですね!
PP: 研鑽を積み、次にプログラム作りです。曲選びはどうやっているのでしょう?
AS: 私が指導する長光チームでは、まず選手の希望を聞きます。その提案に合う曲を流していきながら決めます。「タンゴをやりたい」「バレエの曲を」とか⋯ちびっ子達だと「お姫様みたいなのがいい!」とか(笑)
PP: お姫様になってみたいですよね(笑) 振付師の方とも相談されるのでしょうけれども、「この曲をやる!」と最初から決めている選手もいますか?
AS: シニアの選手だと自分自身の得手不得手が分かっているので、合う曲を選んでくることもあります。ちびっ子達だと、「この選手がこれやってるから」みたいなことも(笑)
PP: インスパイア系ですね(笑)
AS: 衣装は、一から作るものと既製品を手直しするものがあります。イメージに近い既製品をベースに手を加えるほうが安く作れます。今は私が現役だった頃と比べて既製品が充実してます!選手本人側の案やコーチの意見もありますし、振付師の方がデザインも受け持っていることもあります。
PP: プログラムを練習してきて、いざエア試合本番を迎えます。他のスポーツと違って心配なのは、「滑走順」があるのでアップを6パターン考えないといけないことです。せっかく「6分間練習(6分)」で温まったものが場合によっては冷まされるんじゃないか、と⋯
AS: (笑)
PP: 澤田選手はどの滑走順が一番よかったですか?
AS: 私は特に「ここが好き」というのはなかったんですけど、
PP: エッ!?
AS: まず、選手によって本番に向けて靴を脱ぐ人・脱がない人という2パターンがあります。私はずっと履いたままで。フリーでグループ最後の滑走になると、6分が終わって30分ぐらいずっと待ってることになるんですけど、その間履き続けてるんです。脱ぐ人だと、2番目までは脱げず3番目以降だと6分が終わってすぐ脱いでますね。
本番までのアップは、ジャンプの瞬発力を上げるような、リズムをつけた「速い動き」⋯腿上げや高速ステップ。他にはストレッチとか、選手によって様々です。「椅子に座って待つ」とか、選手それぞれ自分のペースを持っています。
PP: 皆さん、1番から6番までの過ごし方のパターンを持っているんですね?
AS: 徐々に身につけていきます。私は勝負どころで5番とか6番が多くて、他の試合でその滑走順として試したかったんですけど、そんな時に限って1番2番を引いてましたね(笑)
1番2番は、6分ですごく集中して動くのでそこで体力を使うんです。1番だと6分が終わって1分以内に出ないといけないので、体力温存のために6分の途中の5分頃で練習をやめないといけないんです。
PP: あー⋯そこで休んでおかないと6分と繋がっちゃってフリーだと10分ぐらいになってしまうんですね。
AS: そうです。6分の残り1分になったら、水分補給とか靴ひもの最終チェックをして息を整えて。名前を呼ばれて1分で開始なので一番忙しいです。
PP: 1番はアップからすぐ行けていいね!って思ってましたよ⋯
AS: 2番はアップして少し休めて行けるのでいいね!と私は思ってました。
3番4番は、15分20分後になるので、その間ずっと集中し続けることは難しいんです。音楽を聴いたりして上げていくんですけど。
5番6番になると、いったん集中を切ってもう一回上げていけます。
PP: ⋯となるとエア試合の滑走順としては2番が良さそうです(笑)
AS: (笑) 私はどの滑走順でもポジティブに捉えていました。1番だったら「ずっと氷に乗れてラッキー」2番だったら「ちょっと休めてラッキー」3番4番は「もう1回靴ひもとかゆっくりチェック出来る」とか。5番6番は「体力も完全に回復出来る」と。
PP: どの滑走順になってもエア本番頑張れそうです!
レッスン終了後、亜紀先生より最後のお話
AS: "エア"フィギュアスケートのレッスンをここまでやってきましたが、選手人生を考えると、このように文章で伝えられる論理を頭で理解して実際にやれるようになる頃には、選手人生は残り少なくなっているんです。小さい頃は感覚的にやっていても、大学生ぐらいになるとスケート部の学生スケーターを教える選手もいるほど、探究しながら技術として身につけていきます。このレッスンで感じられたことを、高学年になって体現している選手達の演技に見出してもらえるとうれしいです。
AS: そして是非、選手人生も終盤に入っている、全日本を目指している大学生の選手達の応援もお願いします!高校のインターハイでは120人ぐらいの選手が出場しているのですが、大学のインカレになると30人程度に選手が減ってしまうんです。進路に関わってくる大学時代にスケートをやめる選手も多いです。人生の大事な分岐点にスケートを選んでいる選手達を応援してほしいです。
AS: 高校を卒業してすぐディズニー・オン・アイスに就職する選手もいたり、仕事としてスケートを選ぶ人もいます。そんなスケーターも是非応援して下さい。アイスショーでは、最終回で紹介しましたフリームーブメントもたくさん出て来ますよ!
PP: ⋯"エア"でも大変なのに、それに一生懸命に精進する選手の皆さんをとにかく応援してほしいですね!!!
AS: (笑) ざっくり言うとそんな感じです。
PP: (笑) 亜紀さんのようにコーチングの道に進まれた先生方も応援します!
AS: 「試合に出るために努力してない人」なんていないので。たとえ試合で失敗したとしても『努力したこと』にはかわりないんです。そんな選手達をどうかあたたかく見守ってほしいと思います。
イラストがLINEスタンプになりました。追加レッスンも併せて開かれましたので続いて受講をお願い致します!
☞ #4チョクトゥ(ステップ)編
☞ 2014年全日本選手権事前特集 澤田亜紀先生の全日本便りでは「(ルール変更により)スポーツファンにとってフィギュアスケートがもっとおもしろくなった点」と男子女子の出場選手について解説して頂きました。
☞ 澤田亜紀先生の15-16シーズン便り#4世界選手権男子日本代表選手編では〜五輪への折り返し地点「ボストンワールド」でのピョンチャンに向けての確認事項〜として、スポーツファンのツボを押す解説を頂きました。|☞ 女子日本代表選手編
☞ 澤田亜紀先生の15-16シーズン便り#1〜3 シニア・ジュニア国内選手と澤田亜紀コーチ
☞ 澤田亜紀さん 2013年3月のインタビュー [Aki KEEPs CALM AND PUTs A SMILE ON]